引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆年々広がる議論
2021年度の共生社会コンファレンス関東甲信越が2月26日に東京都国分寺市の本多公民館をメーン会場にしてオンラインで開催された。主催は文部科学省、国分寺市教育委員会と私たち、みんなの大学校。私自身、このコンファレンスは初回の2年前から3年連続で主催しているが、各年で問題が抽出され、その解決に向けて議論が深まり、そして広がっているような気がしており、今回も一日を通じた基調講演や当事者の発表、分科会での議論は確実に未来に向かう一歩であると受け止めている。
会場に「インクルーシブ」にいろいろな人が集まってできればとの思いを残しつつも、前に進んでいる実感とともに、来年度にバトンを渡せそうだ。参加者のみなさん、登壇者のみなさん、関係者のみなさん、ありがとうございました。
コンファレンスが始まった2年前、東京大学を会場に集合型で開催された際のテーマはとにかく「インクルーシブ」な学びを知らせようとの思いが強く、総花的なテーマ設定で多くの人の新しい枠組みを喚起した。今思えば少々力んでいたような気がする。
それを引き継いだ昨年は、その「学びの実践」の中でも伝統的に活動してきた分野である「社会教育」にスポットを当てて議論した。
◆未来を考える、をテーマに
そして今年。
テーマは「障害者の生涯学習の未来を創造する―『学び』を通じた共生社会の新たな流れ―」と「未来」を考えることを基本とした。基調講演は「生涯学習を展望する障害児者の学びの意義-青年学級などの展開から-」と題して有識者会議の座長を務めた宮﨑英憲・東洋大学名誉教授/全国特別支援教育推進連盟理事長が経緯を説明した上で、障害者の学びの現在地と今後の羅針盤へのヒントを示した。
さらにこのコンファレンスで重要だと考えているのが「当事者がいること」である。当事者なしでは当事者の未来を語ってはいけないし、当事者の声や思いが活動の原点である。昨年は分科会で当事者だけの話し合いの場を作ったが、今年は各地の取組を学生から話してもらおうと午前中に参加者に聞いてもらうことにした。
このコーナー「当事者の声」は司会を茨城県つくば市の「福祉専攻科シャンティつくば」にバトンタッチし、2人の学生が担当した。登壇したのは新潟県新潟市の「福祉事業型KINGOカレッジ」の2人、山梨県笛吹市 の「福祉事業型ユニバやまなし」の2人、長野県松本市の「NPO法人LomiLomiどっとこむ」の2人、東京都練馬区の「i-LDK」の3人。
◆幸せがなかった
発表した各学生は、きちんと原稿を書き上げて読み上げる人もいれば、資料をめくりながら感想を交えての発表、思いのままの発言など、多様なのが面白い。その中で、「これまで幸せがなかった」との発表には、その現実の重さを受け止めながら、それを言える安心感に、その学びを提供する現場のあたたかさを実感した。
参加者のアンケートでもこの当事者の声がよかったという意見がいくつか寄せられた。シャンティつくばの2人の司会者がそれぞれの報告に一言感想も述べるなど、司会者らしいふるまいに頼もしさを感じる。
シャンティつくばの支援者は「任せる大切さを知りました」と事後、感想を伝えてくれた。また、オンラインで100人以上いる前で話をする機会もよい経験になった、と別の事業所の支援者が話してくれた。話すほう、聞くほう、それぞれが「よかった」と言ってくれるのは本当にありがたい。
午後の分科会は次回お伝えします。
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