引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆「ラッセラー」をみんなで
毎週火曜日に重度障がい者を中心にして、事業所や自宅をつないで展開している講義「おんがくでつながる」は先日、暑さの到来とともに津軽三味線の歌手、澤田慶仁さんと共に「青森ねぶた」と「弘前ねぷた」を学び、青森ねぶたの「ラッセラー」で受講者といっしょに盛り上がった。
この盛り上がりは毎週、音楽のジャンルを超えて、受講者の元気な受け答えが講義をリードし、参加したミュージシャンはいつも「楽しかった」と話してくれる。この盛り上がりをさらに広げようと、受講者の方々をさらに増やして、「歌を作る」ことを目指すオープンキャンパスを、8月27日に東京都杉並区の西荻地域区民センターを主会場にハイブリットで開催することになった。
ここは重度障がい者の世界観で「うた」を作っていく予定で、どんな「うた」ができるのか、おもしろそうだ。
◆「帰りたくない」
「世界観」とは大仰な言葉ではあるが、その人から見えるもの、その人が考えるもの、であり、関係者はそれを大切にしていく、という姿勢が基本となる。
生産性とスピード感が優先される一般社会の中では、コミュニケーション行為に道具や時間が必要な場合、重度障がいのある彼・彼女らはこの世のコミュニケーションから取り残されてしまうし、すでに「取り残されてしまっている」。だから、ここはゆっくりと彼・彼女らのペースを考えて、話し合い、言葉を紡ぎたいと考えての今回の企画である。
オープンキャンパスの内容を考えるにあたり、事前の企画委員会では3人の重度障がい者の企画委員に参加してもらったが、その中で企画委員の男性の母親が「帰りたくない」エピソードを紹介してくれた。普段、自分からの発語が難しく、車いすでの移動が必要なこの男性が、家の周囲の公園などを散歩して自宅に近づいてくると、「帰りたくない」と強い意思表示をするという。
◆空気と間合いの中で
男性の母曰く「家の中はつまらない」のだという。自分では移動できない彼にとって、囲われた家の中は安全ではあるが、やはりそこばかりではつまらない、開かれた外はどこであっても気持ちがよいものなのかもしれない。
そんな話を聞きながら、私もこの男性の顔を見ながら、「そうなの? 外が好きなんだ」と話しかけると、その目が輝いたようになって、言葉にはならないコミュニケーションが成立する。
「そうだよね、いつまでだって外で遊びたいよね。まだまだ外にいたいんだよね」。
コミュニケーションが一歩前進すると、見えてくる世界も違ってくる。やはり、これはオンラインではなかなか難しいコミュニケーションの類いであり、その場で目を見て、空気と間合いの中で同意を感じ取りながら、否定を受け止めなければいけないのだ。
次回のオープンキャンパスでは当事者と関係者がインクルーシブに交わり、そんなコミュニケーションを可能にする場にしたいと思う。
◆参加すれば世界は広がる
だから、このコミュニケーションには重度障がい者の参加者も必要だし、その人たちとコミュニケーションを取ろうとする関係者や一般市民の参加も必須だ。要は「交わってみないとわからない」から始まる。ひとつだけ確信しているのは、ここに参加した人たちの世界は確実に広がる、ということ、それはきっとそれぞれの世界観を豊かにするのだと思う。
オープンキャンパスは8月27日(土)午前10時~正午。西荻地域区民センター(東京都杉並区桃井4-3-2)での会場参加、またはオンラン参加をお選びいただけます。
申し込みは、みんなの大学校まで。
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