引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆データは個人そのもの
ジャーナリストの斎藤貴男氏の著作『機会不平等』(文春文庫、2004年)は教育、派遣社員、労働組合、高齢者福祉、経済政策や優生学などを題材に日本社会での不平等に斬り込む名著であり、その成り立ちを考える時に私たちの社会の在り方や個人の思想性が突き付けられる。この不平等を解消するために、私は情報格差をなくすコミュニケーション環境の在り方を考えて、私なりに実践してきたつもりだが、ここにきて大きなテーマを突き付けられている。それは「データ化された個人情報」の取り扱いだ。
コミュニケーションがバーチャルになるほど、その世界で個人とは、すなわちデータになっていく。そのデータは個人そのものであるとの認識がコミュニケーションは成り立たせるわけで、その新しい関係性における倫理観や保護など、議論すべき点は多い。
このコミュニケーション自体は誰もが幸福になるための道筋でもあるから、早急に社会で共有し議論を深めなければならないだろう。
◆GDPRをベースに
すでに私たちの個人情報は、グーグルで検索したり、アマゾンで買い物をしたり、フェイスブックで発信している時点で他者に提供している。便利なコンテンツに接するたび、ネット上での私はデータ化されており、この保護は今後の活動の進展には欠かせない議論である。
この中で欧州連合(EU)の、個人情報(データ)保護を目的とした「EU 一般データ保護規則(General Data Protection Regulation(GDPR)」を考え、日本社会で対応する論点を整理していくのが妥当ではないかと思う。
これは宮田裕章・慶応義塾大医学部教授が指南する、個人情報データを「公共財」と捉え、社会が善用するために新たな価値観で人々の「生きる」を再発明する考え方に大いに賛同した上での、必要なプロセスではないだろうか。
◆違反行為に制裁金も
GDPRは、個人情報のデータ保護はすなわち基本的人権の確保に直結するとの考えを基本としている。2016年5月から適用が開始されており、例えばEUを含む欧州経済領域(EEA)域内で取得した「氏名」「メールアドレス」「クレジットカード番号」などの個人データを EEA 域外に移転することを原則禁止している。違反行為に対しては、高額の制裁金が科される仕組みで、GDPRに基づき欧州各国では規制が制定されている。
コロナ禍の前から障がい者施設を遠隔で結びコミュニケーションを取ってきた、もしくは取ろうとしてきた私にとって、遠隔のコミュニケーションによって障がい者が映像化され、名前が音声化されることで、それらの個人情報がデータになる現実を恐れる施設や障がい者は少なくないことを実感している。生活介護が必要な利用者の入所・通所施設では「保護」する思いが強いあまりに、それらに近づかない姿勢を保ち続けるところもある。
◆守りながら幸福を
この感覚は「データ」「個人情報」の枠組みやその利用や悪用について、明確な情報共有がないまま恐れが先立っている印象も強い。障がい者を守りながらデータを共有化することで、個人の幸福を追求する権利を確実に行使できること、自分の好きなことを多くの選択肢から「自分が」選べることにつなげられるイメージを共有することから始めなければならない、と思っている時に、宮田教授のように、データを社会で善用していく重要さを、その深い知見をもとに指南してくれるのはありがたい。
保護することが結果的に行動の制限になってしまい、機会を奪うことにつながるのはコロナ禍での政策でも社会で議論してきた問題である。最大限に怖がりながら、私たちが行動し、必要な保護を約束され、社会全体がデータを善用する方向にいきたい。
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