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図書館が作る町から生まれる「学び」に期待 『ジャーナリスティックなやさしい未来』第247回

11月 14日 2022年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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◆一等星の施設

図書館城下町――。神奈川県大和市の中心部でのぼりや横断幕で目にするこのコピーは、図書館好きを心躍らせる。相鉄線と小田急線が交差する大和駅は大きな駅前広場とその広場からそのまま伸びる幅広いプロムナードが印象的で、その遊歩道を3分ほど歩くと城下町の中心である図書館が入る大和市文化創造拠点シリウスがある。

開放感のあるガラス張りの建物。シリウスは地球から見える恒星の中で最も明るい一等星で、大和市によると「文化創造拠点が未来にわたって光り輝き、市民に愛される施設となるように」という思いを込めて名付けたという。

文化ホールや図書館、生涯学習施設が入る公共施設は、エントランスがスターバックスの店舗と図書館の書棚やリラックスして読書できる座いすが一体化しており、くつろぎの空間が広がる。大和市はシリウスを「日本一の図書館」とアピールしている。

◆民主主義の窓

「図書館は民主主義の窓です」。

そう語ったのは早稲田大学教授の片山善博・元総務相だった。1999年のことである。当時鳥取県知事に就任したばかりの片山氏の記者会見でのこの一言に当時、共同通信の鳥取支局記者だった私は強く惹(ひ)かれた。文化政策への予算措置に民主主義を持ち出す官僚出身の知事の言葉がとても新鮮に感じられたのである。

鳥取県の県立図書館は出来たばかりで、心地よい空間だったから、その維持を知事として強く打ち出したのは、記者という職業を超えて一市民として納得したのを覚えている。そんな片山氏は日曜日に普段着姿で図書館の書棚をながめ本を手に取る姿が見られ、私も休みに図書館に出かけてお互いに本を探すのが目的な場所で、軽くあいさつを交わしていた。

この「民主主義の窓」というフレーズを聞いた時から私の図書館へのまなざしが変わり、世界のどこでも通用するキーワードとして図書館を見てきた。その視点から、「図書館城下町」というキャッチコピーには新しい方向性を見せられた気がしたのである。

◆みんなのコンサート

大和市は人口約24万人で神奈川県の中央にあり、私鉄2社の駅が交差することから、東京方面にも横浜方面にも通勤が可能な位置にある。シリウスは、図書館だけではなく、芸術文化ホール、生涯学習センター、子供向け施設のある文化複合施設であり、1階にはスターバックスコーヒーやコミュニティラジオの公開スタジオ、2階には市民交流ラウンジがあり、市民の「コミュニティスペース」のモデルを示している。

私は今年度の文部科学省による委託研究事業で、このホールを指定管理者として運営するサントリーパブリシティサービス株式会社と障がい者向けの学びの場づくりについて共同研究をしている関係で、この図書館を注目することになった。

このホールでは障がいのある方でも気軽にコンサートを楽しんでもらう「みんなのコンサート」が昨年から開催されており、この開催もやはりシリウスを「町の中心」として捉えた時、ごく自然に考えられたイベントだとすれば、やはり文化施設を町がどのように位置づけるのかはコンテンツにも影響するのではないかと思う。

◆米軍のある町で

コンサートに関しては今後、報告することとして、図書館が作る民主主義、図書館からはじまるまちづくりは、最終的に「人づくり」につながる素敵なコンテンツを導き出すことを期待したい。特に大和市は、西に隣接する東京都綾瀬市とともに、米海軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地がある自治体である。

厚木市にないのに厚木基地という名称になっているのは、綾瀬市も大和市も宿命的な戸惑いを背負わされているようであるが、基地は住宅密集地にも近く、危険が隣り合わせにある現実もある。この状況で文化を町の中心に置いて、町づくりをしようという姿勢と、その中身を充実させようという民間企業の行動は、今後の町づくりには大いに参考になるケースなのだと思う。

今後もこの取り組みを見ていきながら、障がい者の学びと地域や施設の在り方を考えたい。

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