引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆地域で、一緒に
障がい者の生涯学習の推進に向けて千葉県の公民館職員らを対象とした「障害者の学び」研修会で、「地域で学ぶ 一緒に学ぶ 障害者と学ぶ」と題した講演を行った。講演前には文部科学省から行政説明として障がい者の生涯学習に取り組む政策や全国における実施の現状や事例、今後の方針などが伝えられたから、私はその背景を前提にして、現場で働く方々により実践的な内容を具体的に話す機会となった。
文科省による障がい者の生涯学習の委託研究を当初から行ってきた者として、成功や失敗を繰り返しながら、有効だと思える手法をお伝えするのが私の役割。各地の公民館で、その地域でのインクルーシブな学びは成立するという自信を得てほしいとの切実な思いで臨んだが、講演をして思うのは、インクルーシブな場づくりや内容の検討、具体的な言葉の選び方など、やることは多岐にわたるのだが、それは「やろう」という道筋の中で自然発生的に備わってくる知見であるとつくづく思う。だから、まず「やろう」から始まるのだ。
◆5項目のガイドライン
そのため、まずは受講者の「やる気スイッチ」をオンにする話を心掛けた。本年度の文科省事業で、ホールや美術館・博物館、公民館を指定管理者として運営するサントリーパブリシティサービス(SPS)社と「障がい者のための場づくり」研究をする中で、全国の指定管理者や自治体の公民館関係者らに実践してもらうためのガイドラインづくりを行っており、先日検討した素案の内容が今回の「やる気スイッチ」の前提と考えた。
内容は5項目で「1=インクルーシブな『学び』の可能性を視野に置いた運営を行う」「2=障がいへの理解促進を実証的に進める」「3=オープンな施設・イベントを企画する」「4=地域に根差した障がい者への適切なアプローチを検証する」「5=民間企業の役割を検討し関係機関及び専門家と連携しながらダイバーシティ社会の場づくりを探究する」。今回の講演でも強調したのが、前提ともなる1である。この前提なしに学びは成立しないから、再度各地域で確認する必要があるだろう。
◆囚われからの解放
1の内容は3点あり、「『学び』とは何かの確認―知的障がいでも成立する学び」「文科省の政策及び方向性の確認―国が求める社会教育施設の役割」「障がい者に関する国際基準の確認―障害者権利条約を理解する」としているが、最も重要なのが最初の文章で、講演で私は「学びの囚(とら)われからの解放」という表現で、これまでの教育観をリセットしようと訴えた。
つまり、評価的になる学び、点数至上主義や他者との比較によって、評価するという教育では当たり前の基準を考え直し、今、目の前にいる障がい者の今の学びを成果として認知しようという考えである。学びを提供する側は、提供したものの一つでも多く学んでほしいと思うかもしれない。
しかし、それは提供者の勝手であり、学びには受ける側の特性もある。受ける側の「十分」は受ける側しか分からないのだ。その十分を他者も「評価」することが学びの成立だという考えが基本となろう。
◆サービスの文脈で
また、行政区分の知的・精神・身体のそれぞれの特性への理解はもちろん、重症心身障がい者や発達障がいへの対応の理解、芸術活動と障がいに関する知見を高めること、地域での福祉の成り立ちを理解し、各地域での福祉行政とのコミュニケーションを会得することも盛り込んでいる。
さらに民間企業を意識して、企業の特性を生かした取り組みを推進することも明記した。研究会の中ではSPS社から民間企業ならではの発想もあり、むしろ自治体が学ぶべきことも多い。トレンドを見極め、必要な対応をサービスやホスピタリティーの文脈で考えると、必要な場づくりが整っていくのだと期待を感じてしまう。
そして、誰がやるか、である。
ここは役割の違いはあっても、インクルーシブな状態を作るにはまず、施設の運営側も市民とともに場を作ることを意識したい。そのプロセスこそが、学びとなるはずだ。
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