п»ї 東日本大震災-13回忌から考える2つの伝承施設 『ジャーナリスティックなやさしい未来』第250回 | ニュース屋台村

東日本大震災-13回忌から考える2つの伝承施設
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第250回

3月 06日 2023年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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13回忌の節目

2023年3月11日で東日本大震災から12年になる。仏教の考え方では干支が一巡したことにちなむ13回忌にあたる。この13回忌は7回忌とともに区切りとされ、法要は7回忌や13回忌をもって終了することも多い。その13回忌で東日本大震災がどう語られるか、またこれを境に忘れられていくのか、大きな節目かもしれない。

先日、来訪した被災地ではいまだに困難な日常や死者への悲しみや行方不明者への哀れみが日常的に存在しているから、忘れるわけはないのだろう。被災地とそのほかの土地とのギャップは必然であろうが、それは大きくなるばかり。先日、「忘れてはならない」地域の思いを形にした二つの施設、宮城県気仙沼市の「気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館」と宮城県南三陸町の「南三陸町東日本大震災伝承館・南三陸311メモリアル」を訪れ、距離を超えて震災の教訓を共有し、そこから得た叡智(えいち)を形にする難しさを考えさせられた。やはり距離を埋めるのは「対話」しかない。

◆遺構と化した校舎

気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館は2019年3月にオープンしたもので、気仙沼市の海岸に近い気仙沼向洋高校の校舎を被災したそのままの姿を残して展示している。来訪者はその生々しい展示を見る前にシアターで3月11日当日の津波が気仙沼を破壊する様子を生々しい映像で視聴する手順となっている。

市民が撮影した動画の迫力は今も衝撃的だ。私は震災発生後のテレビニュースを見て、すぐに現地に向かおうと考えたと同時にメディアからの映像の衝撃を避け、離れたため、あまり目にしていないし、これまでも避けてきたように思う。それが、伝承館では否応なしに見せられてしまった。

その映像の衝撃のまま、遺構と化した校舎をめぐる。廊下、階段、校長室、教室――。誰もが親しんだ学校は、答案用紙も何かで表彰されたトロフィーも、パソコンも、あの日のままで動かない。当たり前の日常が破壊される悲劇を感じることは、やはり「忘れないこと」になる。

◆自然と生きる

南三陸町東日本大震災伝承館・南三陸311メモリアルは建築家、隈研吾さんのデザインがひときわ目を引く施設で2022年4月にオープンした。震災のシンボル的な存在となった防災庁舎を遺構とした公園には、店舗が並ぶ「さんさん商店街」やかつてのJR志津川駅跡もある。

この施設は「東日本大震災の経験を共有し“自然とは、生きるとは”に思いを馳(は)せ、語り合う場」と説明する。こちらは被災者の語りから実体験を伝えることに重きを置いているようで、コンテンツとしてラーニングプログラムを用意してあり、「その避難が生死を分ける」「助かった命を守る」「住民同士の助け合い」がテーマだ。

「自然とは、生きるとは」という問いは、自然現象の災害とともに生きることの決意を示しているようにもみえる。このテーマは考えれば、考えるほど哲学的な思考になっていくが、より自覚的な「生きる」につながっていくとすれば、施設の存在の意味合いは深くなる。

◆活かすために対話を

気仙沼市と南三陸町は、東日本大震災の支援で直後から関わってきた地域であり、毎年のこの地を訪れ、1年毎の変化を感じてきた。今回、初めて目にする311メモリアルは、骨組みだけとなった防災庁舎と一体化した公園にあり、その庁舎とともに震災を伝える覚悟を示したと受け止めたい。

震災1年後あたりから、防災庁舎を解体するか、遺構として残すかの議論が交わされ、地元の賛否も聞いてきたし、実際にその庁舎で亡くなった遺族の思いにも触れてきた。その過程を踏まえれば、遺構にするからにはそれなりの決意を持って、「活(い)かす」べきなのであろう。

そう考えた時に、この施設を活かすのは行政や地元任せではなく、外部との対話や生の声で構成されるつながりなのだと思う。気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館では語り部の若いボランティアが誠実に説明し、1階のホールではイベントも開催されていた。その動きは、この施設が生きている、ようにも思えた。

311を見つめながら、私たちは対話から新しい未来を考えていきたいと思う。

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