п»ї 成田国際空港の貨物空港化への提言『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第56回 | ニュース屋台村

成田国際空港の貨物空港化への提言
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第56回

10月 30日 2015年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住17年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

9月28日付の日本経済新聞によると、成田空港に3本目の滑走路を建設する議論が始まったようである。同紙をそのまま引用すると、「自民党の議員連盟は7月、国や千葉県に第3滑走路建設を要望。今月17日には国、千葉県、地元9市町、成田国際空港会社による4者会議が開かれた。滑走路新設がテーマの協議は初めて。激しい建設反対運動の歴史を抱えるが、羽田やアジア諸国の空港が台頭する中、地盤沈下への危機感から、地元でも建設を求める声がでてきた。」とのことである。

海外に長く住み、世界中の空港を利用してきた私から見れば、「何をいまさら」という感が否めない。成田空港の凋落(ちょうらく)は日本の空港行政の無責任と地元の怠慢が導いた必然の結果である。今回はその打開策として、成田空港の発展と日本の農漁業発展にもつながり得る「貨物空港化」とそのための具体策について提言したい。

◆「成田は国際線・羽田は国内線」不便な枠組み

まず日本の空港の現状を見てみよう。

図表1を見るとわかるとおり、航空旅客数では羽田空港が4位に入っているものの、成田空港は上位30港にも入っていない。成田空港は航空貨物ランキングではかろうじで10位となっている(図表2)。表は割愛したが、発着回数でも成田、羽田両空港は上位15港に入らない状況にある。

そもそも成田国際空港は日本の航空機需要の高まる中で、羽田空港が手狭になってきたことから1978年に開港した国際空港である。多くの候補地の中から国有地の割合が高かった成田に建設されたものの、地元での激しい反対運動から滑走路は4000mと2500mの2本しか建設されなかった。しかしながら、長年にわたり空港を抱える地元に配慮し、「成田は国際線・羽田は国内線」という枠組みで運用をしてきたことで、国内線から国際線への乗り継ぎが不便な状態を生み出してしまった。

◆中途半端な滑走路と立地

それでは日本の空港と直接競合するアジアの諸空港との比較をしてみよう。

日本の空港の問題点の第一は、中途半端な滑走路にある。成田国際空港は大型機が余裕を持って離着陸できる4000mの滑走路を持っているものの、滑走路数は二つしかない。一方で、羽田空港は四つの滑走路を持っているものの、最長で3360mまでである。

アジアの諸空港をみると、滑走路は3本から4本持っている空港が多く、長さも4000mに近い。また、韓国の仁川国際空港、中国の上海浦東国際空港、タイのスワンナプーム国際空港、マレーシアのクアラルンプール国際空港は、今後さらなる増設も計画されている。

次に問題なのが、東京都心及び羽田空港から離れている成田国際空港の立地である。車での移動は渋滞の問題もあり、所要時間が増してしまう。一方で、電車での移動はJR及び京成線の特急を利用することで時間の短縮にはなるものの、料金は他国に比べて高い上に、まだ時間がかかる。

さらに、成田国際空港については78年の開港以来、近隣住民への騒音問題に配慮して23時から翌朝6時までの離発着を認めていない。少ない滑走路や夜間飛行が出来ないことなどから、成田空港では国際線需要に耐えられず、2010年10月の羽田空港国際線ターミナル開設と共に羽田空港の国際線増枠が実施された。

旅客向け国際空港として成田の価値は失墜してしまったのである。日本はアジアの最東端に位置しており、北米向けのハブ空港として最適の場所にある。しかしながら国土交通省によるリーダーシップのなさと地方の怠慢から、成田空港は図表3に示されるとおり、発着回数、旅客数で見てもハブ空港の役割を韓国・仁川空港と中国・北京空港に奪われてしまったのである。

韓国、中国に奪われてしまったアジアのハブ空港を取り戻すにはどうしたら良いのであろうか? 旅客用ハブ空港の競争力を維持する要素は、①国内・国際線ともに乗り継ぎが便利②大都会に近く乗り継ぎ時間中に空港外へ出られる③発着枠などのコストが安い――の3要素が重要であると思われる。これらの要素を考えると、旅客用国際空港は羽田に集約することが得策である。真に競争力のある施策を打ち出さなければ日本はますます中国、韓国の後塵(こうじん)を拝することになる。早急な政府の決断が必要である。

◆日本屈指の農水産物の産地-千葉県の特性

それでは残された成田空港はどのように活用すればよいのであろうか? ここで千葉県の特性を見てみよう。

千葉県は東京に隣接しているため都会的なイメージが強いが、実は日本屈指の農水産物の産地である。また、隣接する茨城県も同様である。一方、図表5で示されるとおり、成田周辺の道路網は圏央道、外環道を中心に整備が進んでおり、東名道、東北道、常磐道など主要高速道路との接続もきわめて便利なのである。

こうしたことから、成田市並びに周辺の佐倉市、八街市、富里市などには大型の物流センターも建設されてきており、約4万㎡と一大集積地になりつつある。そのため、成田空港は貨物空港への転用がきわめて有望であると考えられる。

それでは、どのようなものが航空貨物として適しているのであろうか。 図表6は国土交通省による平成25年度の品目別航空貨物の輸出入実績をまとめたものである。

この表をみると、食料品、繊維製品、半導体等の機械部品の割合が高くなっている。航空貨物に適した品目は、輸送単価が高い一方で、輸送時間が短いといった航空貨物の特徴から、食料品のような鮮度が求められるもの、衣類のような軽いもの、機械部品や化学製品といった小さく単価が高いものが適しているといえる。

◆オランダの成功事例

次に国土面積が37万平方キロ(世界ランキング61位)である日本が、農業輸出額を伸ばしていくためには、どのようにすれば良いのだろうか。このことについて考える上で参考になる例としてオランダを見てみたい。

オランダの国土面積は4.1万平方キロ(世界ランキング131位) であり、日本の九州とほぼ同面積である。ライン川下流の低湿地帯に位置し、平坦(へいたん)な地形となっており、うち46%が農用地として利用されている。

オランダは面積が日本の約9分の1だが、農業輸出額では世界第2位となっている。オランダの農作物輸出入品ランキングを見てみると、輸入・輸出ともに1位は花卉(かき)となっている。これは、近隣国から花卉をオランダに輸送し、オランダを中継国として世界各国に輸出しているためである。

そのため、オランダのアムステルダム郊外にはアールスメール花市場という世界最大の花卉市場がある。この市場は面積約100万㎡の屋内に開設されており、世界の花卉市場の40%を占めている。ここにオランダ近隣諸国から花が集められ、世界中のバイヤーによって取引されている。また、アールスメール花市場から車で20分のところにはスキポール空港があり、取引された花卉は、この空港から世界中に空輸されている。

これに対して成田国際空港周辺を見てみると、成田国際空港の西に車で20分の位置に成田公設市場がある。1974年に北総地域の市場統一のために造られた市場であり、青果部と水産部からなっている。前述したとおり、農業生産及び漁獲量で上位にある東日本の各県から都心の渋滞を避けて輸送してくることが可能である。ここでは思い切って、成田公設市場をアジアを代表する農水産物市場に育てることを提案したい。

◆輸出手続きの迅速化とブランド化―解決すべき課題

最後に、成田公設市場を拠点として、成田国際空港から農水産物を輸出するために解決すべき課題を見てみたい。

①輸出手続きの迅速化、ワンストップ化
現在の輸出手続きでは、成田市場で購入された農作物を輸出するために税関手続きや検疫手続きを別途行う必要があるため、手続きに1週間程度を必要とする。これでは、せっかく鮮度良く輸出するために成田市場に集めたとしても意味がない。このために税関職員や検疫官を成田市場に常駐させることで手続きの迅速化、ワンストップ化を図る。ワンストップ化により空港周辺に倉庫を利用する必要がなく、倉庫利用料の削減にもつなげることができる。また、コンテナに混載可能とすることもできるようになるなど、輸出コスト削減につながるだろう。

②成田市場のブランド化
成田市場は、まだ知名度が高いとは言えない。この成田市場に世界中のバイヤーが集まり、日本の農作物を買付け、輸出していくには、花卉といえばアールスメール花市場というようにブランド化をする必要がある。そのためには、成田での商談会や展示会の開催を行うなどにより、積極的な情報発信が求められる。

以上のように、成田国際空港を貨物空港とすることは成田空港にとってだけでなく、日本全体の農漁業発展につながっていく可能性がある。そのためにも、世界への情報発信、ブランド力の向上を図りつつ、コスト削減を目指せるように国や各地方自治体、空港が協力し合うことが必要である。

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