п»ї 小澤流・営業のやり方を教えます!その2 マーケティング・オートメーション 『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第274回 | ニュース屋台村

小澤流・営業のやり方を教えます!
その2 マーケティング・オートメーション
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第274回

9月 06日 2024年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

oバンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住26年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

コロナ禍を経てバンコック銀行(バン銀)日系企業部が新たに始めた営業方法に、オンラインを使った「マーケティング・オートメーション(MA)」がある。このMAはバン銀の系列コンサルタント会社であるバンコク・コンサルティング・パートナーズ社(BCP社)を通して行われる。まず、BCP社の生い立ちを簡単に説明しよう。

BCP社は2011年10月にバン銀系列のコンサル会社として発足した。当時は自動車産業の2次・3次のサプライヤーなど日系企業のタイ進出がブームとなっていた。バン銀としてもこうした日系企業のタイ進出支援の窓口を設ける必要がある。日本貿易振興機構(ジェトロ)進出支援室をはじめとして、すでにタイには日系企業の進出支援をするコンサルタントが数多くいた。私たちバン銀がわざわざ独自にコンサル機能を持つのも無駄である。それよりも善良で有能なコンサルと提携をしたほうが良い。

◆コンサル会社設立と「企業紹介」ページ

私は日本や米国での勤務経験から、もともとコンサル不信である。何ら資格も有せず、金もうけに走るコンサルのなんと多いことか! 当時在タイ15年になっていた私の耳にも悪徳のコンサルの名前が聞こえていた。常日頃から懇意にさせていただいていたジェトロの人たちにも教えを請い、信頼できるコンサルを数社選定した。この中から親身になってお客様の進出相談を受けてくれるバンコク週報グループ、現実的かつ保守的に法律指南をしてくれるプロリーガル社、タイで唯一ビジネス商談会を行っているファクトリー・ネットワーク・アジア社の3社にBCP社への出資を仰いだ。この3社については、バン銀の提携先として私たちのお客様の紹介を積極的に行うこととした。

さらに日本サイドでは、中小企業向けコンサルでは最も定評のある船井総合研究所(船井総研、地方銀行とのネットワークを生かして日本で食品の展示会を展開するリッキービジネス社にも資本参加をお願いした。こうしてスタートしたタイ法人のBCP社だが、BCP社としては当初、進出日系企業の出資業務を細々と行うぐらいで、主な機能は出資者間同士の協業であった。このためBCP社には専業スタッフを置かず、バンコク週報やプロリーガル社、バン銀スタッフが手分けして日常業務を行った。

ただ、せっかくコンサル会社を立ち上げたのに、何の宣伝もしないのは寂しい。このためBCP社のホームページを立ち上げることにした。私には40年ほど前にシステムプログラマーとして働いた経験がある。古くさび付いたITの知識を持ち出して画面のデザインなどを行い、最低限の資金でホームページを立ち上げた。

前回273回で説明したように、私の最も大事な価値観の一つに「真の顧客第一主義」がある。新しく立ち上げたホームページの中に私たちのお客様を紹介する「企業紹介」のページを作り、自社でホームページを作る体力のない中小企業のホームページの代行をしようと考えた。単なる私の思い付きから始めた「企業紹介」であった。

ところが、なんとこれが大化けをするのである。バン銀日系企業部には約30人の日本人行員が在籍する。新人時代の研修期間もあるので、通常時の実働者は25人弱である。この日本人行員が毎月1社、自分のお客様をこの「企業紹介」ページに登録する。8年ほど前からこうした作業を開始した。

残念ながらコロナ禍下にあった3年はこの登録作業が停滞した。しかし「継続は力なり」である。バン銀日本人行員がこうした地道な作業を繰り返してくれたおかげで現在、BCP社の「企業紹介」のページに登録されている企業数は1300社を超えている。なんと在タイ日系企業の1/4に迫る数である。

◆ホームページ登録者・閲覧者増加へメルマガ発行

これだけの企業情報が集まると、BCP社のホームページ閲覧数も増加する。BCP社のホームページを見ていただくとおわかりのように、このホームページはバンコク週報が提供するタイのニュースやバン銀情報などでほぼ毎日、データが更新される。さらに毎月3000回もの閲覧数があることでグーグルの検索順位は最上位にまで上がっている。バン銀のお客様が独自に作成したホームページよりBCP社の「企業紹介」のページのほうが掲載順位の上位に来るほどである。

このホームページをさらに有効に活用する方法はないか――。私は年2回、BCP社の日本側株主を定期訪問しているが、船井総研から「数年前からマーケティング・オートメーション(MA)の手法を活用している」とうかがった。船井総研からはこれまでも多くの知恵をいただき、本当に感謝している。私は早速MAの手法について勉強するとともに、数社のMAシステムを比較検討し、最終的にクラウド・サーカス社(CC社)からシステムを提供していただくことにした。

さすがにCC社はマーケティングのプロである。BCP社のホームページの登録者や閲覧者を増加させる方法をいくつも教えていただいた。まずCC社のシステムを活用して今年初めからメルマガを発行。BCP社の情報登録者(リード)数を増加させる工夫を始めた。メルマガの発行回数は月1回。お客様に役立つ情報をメルマガの紙面全体の8割の割合で掲載するよう指導を受けた。CC社のアドバイスは秀逸である。「真の顧客第一主義」を考えるならば、メルマガの内容もお客様の役立つ情報を載せなければ意味がない。

メルマガを発行元の宣伝媒体と考えたら、お客様が読まなくなる。また発行頻度が高くなれば、やはりお客様から敬遠される。それまでメルマガは、紙爆弾のごとく「発行が多ければ多いほど良い」と誤解していた。

CC社のシステムを使うことでBCP社のメルマガ開封率がわかる。CC社のアドバイスによって、BCP社のメルマガ開封率は35~40%と驚異的な数字をたたき出している。通常のメルマガの開封率は2%から5%なので、私たちの情報発信が「いかにお客様からの支持を受得ているか」がわかる。うれしい限りである。

◆オンラインセミナーも開催

情報発信はメルマガだけでなく、オンラインセミナーでも行っている。こちらもお客様に役立つ情報を取り上げるよう心がけている。そもそもバン銀では年4回リアルなセミナー(聴衆が会場に来る形式)を開催してきた。しかしコロナ禍を経てリアルなセミナーの集客力は極端に落ちてしまった。こうした傾向は私たちだけではなく、日本の3メガ銀行やジェトロの人たちからもうかがっている。コロナ禍の間にオンラインセミナー(ウェビナー)が一般化してしまったのだろう。私たちもリアルなセミナーからウェビナーへの早急な転換が必要であった。

しかし私たちにはオンライン会議のノウハウはあってもウェビナーのノウハウはない。まずはZoom社のウェビナー機能をおそるおそる購入した。またBCP社の「企業情報」の登録作業などを行っていたバン銀日系企業部の湯浅理恵さんが、メルマガの発行やウェビナー開催のノウハウを身につけてくれた。ウェビナーは毎月1回開催しており、その内容もお客様の業務支援に資する題材を選ぶ努力をしている。おかげでこちらもそこそこの集客力を誇っている。メルマガの発行とウェビナーの開催は、こうした業務経験がなかった湯浅さんの奮闘のたまものであり、大変感謝している。

BCP社の情報発信機能としてはほかにも、BCP社のホームページにも掲載されているYou Tube「タイで働く」がある。2023年初めからバン銀日系企業部の佐久間絵里さんと発信を始めたが私自身、70歳にしてユーチューバーになるとは思わなかった。

内容がタイの歴史や華僑の定義、さらには人工知能(AI)など硬派のものなので、再生回数は9000回と伸び悩んでいるが、私がこれまで26年間タイで勤めてきたノウハウが詰まっているので、機会があればぜひ視聴していただきたい。

◆「企業情報」活用したビジネスマッチング

最後にBCP社のホームページの「企業情報」を活用したビジネスマッチングについてご説明したい。

前述の通り、BCP社のホームページの閲覧数は月3000回に至る。この大半が「企業紹介」である。多くの企業が他社の情報を知りたがっている。製品販売先として、または部品納入先として、である。こうしたお客様間のビジネスマッチング機能をBCP社のホームページに付け加えた。BCP社の「企業紹介」欄に掲載されている企業(紹介希望先)を紹介してほしいと希望するホームページ閲覧者(紹介依頼先)は、自社の情報や依頼目的などを記入してBCP社に情報登録する。こうした紹介依頼がBCP社に届くと、この依頼をバン銀内の紹介希望先を担当している日本人行員に転送し、依頼内容をBCP社のホームページ掲載企業(紹介希望先)に連絡する。

こうしてバン銀の日本人行員が絡んだ形でのビジネスマッチングを実践している。ただ、企業紹介の依頼を無責任に行う人も現れてきたので現在、企業紹介依頼は月3回に限定している。それでもこうした企業紹介依頼は毎月少しずつ増加し、月30件ほどになっている。

そもそもビジネスマッチングは日本の銀行が力を入れている領域であり、日本の公的機関を含めてタイでは年間いくつもの商談会が行われている。しかし内実を見ると、こうした商談会は開催者の自己満足になっているケースが大半で、商談の成約率は1%にも満たないという。たとえば100社の企業を集めて1日1社あたり4件の商談をアレンジしても、成約件数は4件(100社×4件×1%)である。こうした商談会には多くの時間とお金が投入されている。まさに「労多くして功少なし」である。

商談会がうまくいかない理由に、商談会参加者が本気で商談を望んでいないこと、商談会開催者が参加者の製品や業務を理解しないまま意味のない面談がアレンジされていることなどが挙げられる。

BCP社のホームページを利用したビジネスマッチングは「真剣に取引を希望している人」が「相手企業の内容を真剣に検討・研究する」プロセスを経て当方に連絡してくるので、成約率の低い商談会を行うよりはよほど効率的である。

一方、取引のない新規先企業との面談を実現するためには、面談希望企業は平均8万円の費用がかかるといわれている。その内訳は商談会への出席費用、広告費用、接待費用、営業要員の人件費などである。BCP社のビジネスマッチング機能を使えば、費用が無料になる。また、BCP社の「企業紹介」掲載企業側には、前回第273回でも指摘したように「営業力に不安がある企業」も存在する。こうした企業に対してはバン銀日系企業部の行員がお手伝いする。これも私どものビジネスマッチングの強みである。

こうしたビジネスマッチングを始めて半年弱。予期しない成果も現れている。海外からの引き合いである。昨年1年かけて「企業紹介」欄に英文表記の会社名と業種を補記した。これを頼りに海外企業もブラウザ上の翻訳機能を使ってBCP社のホームページを閲覧している。「企業紹介」を使ったビジネスマッチングにはこれまでに米国、英国、中国、ベトナムの企業から紹介依頼があった。

日本企業が世界の中で今後生き残っていくためには、積極的に海外企業との取引を開拓し、ものを売っていく必要がある。コロナ禍以降、日本とタイで企業業績を見てきた私の経験則である。“自閉症”気味で積極的に営業を行わない企業は、これから生き残れる保証はない。

BCP社のビジネスマッチングは、海外に目を向けていなかった日本企業の海外戦略の後押しをする。来年にはBCP社のホームページに「英文の企業紹介ページ」を掲載することも検討中である。日系企業の生き残りのためにバン銀日系企業部並びにBCP社が少しでもお役に立てればこんなにうれしいことはない。

※『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』過去の関連は以下の通り

第273回「小澤流・営業のやり方を教えます!―その1 営業職の心構え(2024年8月23日付)

https://www.newsyataimura.com/ozawa-154/#more-15118

第235回「必読!営業力養成講座」(2023年2月17日付)

https://www.newsyataimura.com/ozawa-114/#more-13625

第73回「日本企業の営業力不足を憂う」(2016年7月15日付)

https://www.newsyataimura.com/ozawa-65/#more-5716

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