日本の医療機器の実力は?(その1)
世界市場を概観する
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第284回

1月 31日 2025年 経済

LINEで送る
Pocket

小澤 仁(おざわ・ひとし)

oバンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住27年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

私は10年以上にわたって、この「ニュース屋台村」で「日本の衰退を回避するための提言」を行ってきた。極端な金融緩和に走ったアベノミクスや利権政治家・官僚・経済界が先導した放漫財政、官僚主義に染まった企業幹部の台頭によるコンプライアンス社会の出現と硬直的な人事制度の導入、SNSを介在したフェイクニュースの横行と既成マスコミの堕落などである。金融緩和も放漫財政も日本の経済再生に寄与せず結果として「失われた30年」が現出してしまった。最近になりマスコミでも日本の凋落(ちょうらく)を取り上げるようになったが、具体的な日本再生のアイデアは出てこない。自民党からも野党からも日本をどう導くかの政策は語られない。

問題は山積しているにもかかわらず「問題だらけでどこから手を付けてよいのかわからない」というのが本当のところなのであろう。ここまで事態が悪化したならば、産業技術を起爆剤にして日本再生を図るしかない、というのが私の考えである。そのためここ数年にわたって「ニュース屋台村」で産業技術をテーマに書いてきた。自動車・航空機・造船・通信・半導体など日本が再興するためにカギとなりそうな技術についてである。

今回はMRI(磁気共鳴断層撮影)やCT(コンピューター断層撮影)に代表される医療機器についてである。人間が長寿化するにしたがって、われわれの死亡原因はがんや心筋梗塞(こうそく)など人体構造の劣化に起因するものが大部分を占めるようになってきた。そしてこうした人体構造の劣化を早期に発見することが医療の最重点課題となってきている。果たしてこの領域で日本の技術はどの程度のものなのであろうか? まずは現状把握が日本再生の出発点になる。以下、3回に分けて詳報する。

1.世界の死因・病気と対応する医療機器

1:WHO地域別死亡原因の割合(2000〜2021年)

(出典) WHO(世界保健機関)World Health Statistics2024

・図1は世界の地域別の死因を割合で示したものである

・死因は負傷、感染症、非感染症に大別される。感染症は結核、HIV、マラリアなどで、非感染症は心疾患、がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などが挙げられる

・2020年以降の新型コロナウイルス感染症の一過性要因を除けば、世界では心疾患やがんなどの非感染症での死亡割合が増加している。2019年の世界全体の死亡割合は感染症など18.26%、非感染症73.75%、負傷など7.98%となっている

・心疾患やがんなどの非感染症での死亡割合を地域別で見てみると、アフリカ地域が36.69%で最低。続いて東地中海地域が63.49%、東南アジア地域が70.22%、アメリカ大陸地域が80.85%、西太平洋地域が87.37%、ヨーロッパ地域が89.55%となっている

・先進国を多く含む、アメリカ、西太平洋、ヨーロッパ地域では特に、心疾患やがんなどの非感染症での死亡割合が高いことが分かる
1:人口10万人あたりの死因ランキング(2021年)

(注)非感染症での死因を緑色で表示     (出典)WHO (世界保健機関)のwebサイトより筆者作成

・表1は抽出した6か国の死因上位10位のランキングである。上位10位の死因を調べてみると、米国・欧州・日本など先進国においては、死因上位10位に占める非感染症の割合は新型コロナを除くと90%以上となる

2:6か国の代表的な非感染症と対応する診断医療機器・治療方法一覧

(出典)各種webサイトより筆者作成

・表2は表1の非感染症死因に対応する診断医療機器、治療方法をまとめた表である

・がんや心疾患などの非感染症は、進行すると治療が難しくなるため、定期的な検査や診断による早期発見と早期治療が健康維持において最も重要となる

・診断医療機器に着目すると、非感染症の診断にはエコー、MRI、CTが広く使用されている。この3つの機器は、いずれも体外から画像診断を行える技術を備えており、体内を詳細に把握することで、疾患の早期発見と適切な治療計画の立案を可能にしている

表3:エコー、MRI、CTの機能・価格比較

(出典)各種webサイトより筆者作成

・これら3つの機器は、いずれも体外から画像診断を行えるが、役割は異なる

・エコーは人体の臓器などの軟性組織の情報をリアルタイムで画像化することに強みを持つ。MRIは人体の軟性組織をエコーよりも詳細に画像化することに強みを持つ。CTは人体の肺や骨などの硬性組織を画像化することに強みを持つ。また、これら3機種は診断時に併用されることも多い

・以上から、本レポートでは非感染症の診断に非常に重要な役割を果たしているエコー、MRI 、CTの3つの医療機器を分析対象としたい

2.医療機器の市場

2:人口に対する65歳以上の割合の予測(カッコ内は2020年時点)

(出典):内閣府HP (https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/html/zenbun/s1_1_2.html  )をもとに筆者作成

・図2は各国の人口に対する、65歳以上の割合の予測表である。カッコ内の2020年時点で、日本が28.6%と高齢化率が目立つ。6か国とも高齢化に向かうことが予測されている

3:世界の医療機器市場

(出典):経済産業省[医療機器産業を取り巻く課題について]https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/medical_device/pdf/001_06_00.pdf

・図3は世界の医療機器市場のグラフである。左の円グラフは2019年の市場規模であり、アメリカが43.34%と市場の多くを占めている。国別でみれば、日本が2位に続いているが、ヨーロッパ(ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、スペイン)を合計すると17.72%となり、アメリカとヨーロッパで市場の約6割を占めている状況である

・全体の市場規模は4089億ドルで、エコー、MRI 、CTの3機種の市場合計は推定575億ドルとなっており、相応の市場規模を有していることが分かる(各機種の市場規模、シェアは後掲)

4:世界の医療機器市場需要推移・予測

(出典): AMED 新たな医療機器研究開発支援のあり方の検討に関する調査(2023年3月度 最終報告書)

・図4は医療機器市場の需要予測である。非感染症の病気は身体機能が低下する高齢者に多く見られることから、世界の高齢化に伴い市場も拡大する予測となっている

・今後、医療機器市場の拡大、非感染症の増加に対応する医療機器である、エコー、MRI、CTの需要が増々高くなっていくことは確実である (以下、第285回に続く)

コメント

コメントを残す