п»ї 7つの目標と30の習慣―コロナに打ち勝つ小さな知恵『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第210回 | ニュース屋台村

7つの目標と30の習慣―コロナに打ち勝つ小さな知恵
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第210回

1月 21日 2022年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

o バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住24年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

◆藤井聡太と大谷翔平

前回1月7日付の「ニュース屋台村」第209回では「コロナも悪いことばかりじゃない?」と題して、コロナがもたらした「不自由」を逆手にとって、私自身が新たな挑戦を試みていることを紹介させていただいた。しかし、ピンチをチャンスに変えているのは決して私だけではない。年末年始には過去のテレビ番組が頻繁に再放送されたが、NHKスペシャルで将棋の藤井聡太四冠と野球の大谷翔平選手の特集がそれぞれ取り上げられた。その番組によると、彼らも不自由な時間を活用して新たな次元への飛躍を実践したようである。

まず1本目が、2020年9月のNHKスペシャルをリニューアルした「藤井聡太二冠 新たな盤上の物語」である。当時二冠となった藤井が、さらなる高みを目指して従来の棋風を変えようとして悩んでいた時期のことが描かれている。藤井は積極的にAI(人工知能)を活用・研究し、従来の棋士が思いもつかないような妙手を繰り出す。そんな彼もスランプには陥るようである。しかしコロナによって20年4月から2か月間すべての対局が中止された。藤井はこの2か月を利用して、自分が負けた棋譜をすべて勉強し直したという。この地道な作業により藤井は悩みを払拭(ふっしょく)し、四冠獲得に大きく前進したのである。

一方、大リーガーの大谷翔平選手。投手とホームラン打者の二刀流で21年に大ブレークした国民的スターである。番組タイトルは「メジャーリーガー大谷翔平~2021超進化を語る」。大谷の場合は、右肘(ひじ)の靭帯(じんたい)損傷と左ひざの負傷で満足な成績があげられかった2年間の努力が描かれている。リハビリの過程で不自由な練習しかできない環境で、大谷は投球フォームと打撃フォームの改善に取り組んだ。投球フォームの改善に向けては重量の異なるボールを使って壁投げを繰り返す。打撃フォームの改善は体幹強化とベンチプレス。この地道な作業を2年繰り返すことによって、肘を痛めない投球フォームと下からすくい上げるホームランバッターの打撃フォームが身についたという。

藤井聡太と大谷翔平という現代を代表する偉人たちも「不自由な環境を生かして進化を遂げていた」こと知ると、勇気づけられる。

◆長年のサラリーマン生活の反動との葛藤

さて、ここで前回のテーマに戻り「コロナ禍の2年でどうやって私が不自由を逆手にとれたのか?」について触れてみたい。前回第209回ではかなり見栄を張って私がこの2年でやってきたこと、具体的には①新しい知識の習得②タイ人との交流深化③音楽のレベルアップ④家族の絆――について述べた。

しかし凡人である私にとって、こうしたことをやり遂げることは決して簡単なことではなかった。コロナによって気持ちが落ち込んだり、やる気をなくしたりしたことも何度もある。それを救ってくれたのが「7つの目標と30の習慣」である。この二つはそもそも別個のものであるが、どこでこの手法のめぐりあったのか覚えていない。「退職後の生活の在り方」と「コロナ禍での生活方法」を記述した書籍もしくは記事からの借用だと思われる。しかし実際にはこの手法に気づき実践したからこそ、私は極度の気分の落ち込みが避けられたのだと思う。

まず私の七つの目標をご紹介したい。①読書②バンコック銀行新人向け「小澤塾」の開講③新種業務のスタート(ECビジネスなど)④ジャズ歌詞の暗譜⑤クラシック曲「美しき水車小屋の娘」習得⑥サックス・アドリブ20曲⑦フルートでクラシック曲20曲暗譜⑧ニュース屋台村執筆継続――の八つである。七つの目標に対して欲張りな私は八つの課題を設定している。こちらの目標設定は多分に「退職後の生活の在り方」に適合するものである。

私自身長らくサラリーマン生活を送ってきた。そんな私が言うのも変だが、「サラリーマンは気楽な稼業だ」とはよく言ったものだ。もちろん私だって理不尽な上司に仕え、ノイローゼ気味になったことも何度かある。会社がつぶれそうになり、毎日のように徹夜が続いた経験も2度ほどある。今では考えられないが、朝7時には家を出て帰宅は午前2時ごろという生活を30年近く続けた。それでも今から考えれば「サラリーマンは気楽な稼業」だと思える。雇われ社員であるがゆえに、部下やその家族の生活に対する責任を全面的に感じることも少なかった。

いつもは膨大な日常業務に追いまくられ、真剣に思い悩む時間すらなかった。考える間もなく時間が流れていくその安易さに安住していた。ところが、会社を退職し気楽な稼業を卒業すると、抱え切れないほどの自由時間が突然降ってくる。子供のころはこうした自由時間も学びの時間として有効活用できた。孫を見ているとよくわかる。見るもの、聞くもの、ありとあらゆるものが新たな経験としてどんどん自分の中に吸収されていく。いくら時間があっても足りない。

ところが、思考停止状態が長らく続いたサラリーマン時代から突然この自由空間の中にほっぽり出されると、この自由な時間の使い道がわからず途方に暮れる。「退職後はゆっくりと妻と旅行を楽しみ、好きなゴルフに興じる」と、多くの人がこれまで私に語ってきた。ところが、ほとんどの人たちは1年もたたないうちにこうした生活に耐え切れなくなる。そうこうするうちに大学に入り直して勉強を始めたり、絵画や音楽などに再度チャレンジしたりする、あるいはボランティア活動に打ち込むなどして時間の有効な使い方を見つけているようである。

私はこうした先人たちの「苦難の歴史」を見てきたため、退職後の生活を展望して「7つの目標」を数年前から準備していた。今回のコロナ禍の生活の中では、この「7つの目標」が大きく役立った。不自由な中でも自分の目標が見えていればやりようがある。七つも目標を設定していれば、飽きたら次のことをやればよい。また壁にぶつかっても他にやることはある。現に私は、八つの目標の中で「新種業務のスタート」が途中から手付かずになってしまった。「人と会えない」という制約がある中で、新種業務をスタートさせるだけのパワーが私にはなかった。この課題については、いずれ時機を見て再開をするかもしれない。それ以外のものはこの2年間継続して行っており、前回述べた通り一定の成果も出ている。

◆マインドワンダリングに陥らない秘策

次に「30の習慣」につい述べてみたい。「人間の生活時間の43%は、目の前の課題から注意が離れ、心が迷走している〝マインドワンダリング“に費やされている」という研究結果がある。「心ここにあらず」の状態である。このマインドワンダリングは考えをまとめる効果も期待されているが、一方でつまらない考えが堂々巡りをする可能性も秘めている。こうしたつまらない考えに引きずられると、人間はうつ状態やノイローゼになってしまう。コロナで自由時間が増えると、このマインドワンダリングの時間が増えてしまう。これをコントロールする手法が「30の習慣」である。

自分の好きな行為や楽しくなる時間をあらかじめ書き出し、何もすることが無くなった時にこのリストを見てこの習慣を実践するのである。これらの習慣はごく些細なことであってもよい。ちなみに私の習慣についていくつかご紹介しよう。例えば、①おいしいものを食べる②妻としゃべる③音楽を聴く④テレビを見る⑤ヨーロッパ旅行の写真を見る⑥散歩をする⑦深呼吸を10回する⑧ワインを飲む⑨紅茶を飲む⑩皿洗いをする⑪歌を歌う⑫子供たちにおいしいものをプレゼントする⑬雑誌を眺める⑭友人に電話をする⑮笑い顔を作る――などである。普段ごく当たり前にやっていることばかりである。私はこの「30の習慣」をアイフォンのメモ機能に書き付けてある。人間追いつめられ、煮詰まってくると心の余裕を失ってしまう。そしてつまらない考えの堂々巡りが始まるのである。これを断ち切るために私はこの「30の習慣」を眺める。マインドワンダリングに陥っている私の気をそらせる効果がある。音楽を聴くのでもよい。散歩をするのもよい。深呼吸も効果がある。自分がリラックスしたり、楽しんだりすることによって肯定的な考えが前面に出てくる。逆境にあっても、肯定的な自分がいれば必ず良い結果が生まれるのである。

◆めざせ「明るく楽しい老後生活」

前回第209回で、私はこの2年間で①新しい知識の習得②タイ人との交流深化③音楽のレベルアップ④家族の絆――の四つの良いことがあったと述べた。このうち「新しい知識の習得」と「音楽のレベルアップ」は「7つの目標」があって成し遂げたものである。また「タイ人との交流深化」と「家族の絆」は「30の習慣」を心がけているうちに結果として達成したものである。私にとって「7つの目標と30の習慣」はコロナに打ち勝つ小さな知恵である。しかし、「退職後の生活」という本番はこれからやってくる。この「7つの目標と30の習慣」で私は「明るく楽しい老後生活」を送ることができるだろうか――乞う、ご期待である。

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