山口行治(やまぐち・ゆきはる)
株式会社ふぇの代表取締役。元ファイザーグローバルR&Dシニアディレクター。ダイセル化学工業株式会社、呉羽化学工業株式会社の研究開発部門で勤務。ロンドン大学St.George’s Hospital Medical SchoolでPh.D取得(薬理学)。東京大学教養学部基礎科学科卒業。中学時代から西洋哲学と現代美術にはまり、テニス部の活動を楽しんだ。冒険的なエッジを好むけれども、居心地の良いニッチの発見もそれなりに得意とする。趣味は農作業。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
筆者が先月設立した「株式会社ふぇの」は、遺伝学における表現型(フェノタイプ)から想起している。筆者のライフワークは、薬物反応の個体差を評価することであり、40年ほど同じことを考え続けている。考えているだけでは生活できないので、個体差が大きい薬物反応のデータ解析を職業としてきた。例えば臨床試験の場合、どのようなデータを収集するのか、データ相互の整合性をどのように理解するのかなど、データ解析以前のデータマネジメントの仕事が重要になる。データマネジメントにおける筆者の立場は、データとはデータベースのことであるという、40年前からのデータベース主義者でもある。薬物反応の個体差を遺伝子の差異から説明するのが遺伝型(ジェノタイプ)であって、表現型(フェノタイプ)は環境因子など遺伝型(ジェノタイプ)以外の要因による個体差と考えてよい。遺伝型(ジェノタイプ)は、ゲノムの網羅的解析技術(ゲノミクス)によって大いに進展した。表現型(フェノタイプ)については、どのようなデータをどの程度収集するのか、被験者への倫理的配慮などもあり、難しい議論になる。例えば、筆者が積極的に関与したのが、医療画像を臨床試験の「データ」として収集・解析する技術だった。数百人規模になる臨床試験のMRI画像を、データとして収集・解析する技術は、科学的には魅力があっても、経済的な困難もある。別の例では、音声のリアプノフ指数(参考:https://ja.wikipedia.org/wiki/リアプノフ指数)のデータを解析した経験もある。意味不明なデータから、性別や年齢が推定可能であっても、疲労度やストレスを定量化するための、医学的に有用なレベルには至らなかった。「株式会社ふぇの」では、従来の統計的なデータ解析ではなく、独自の機械学習法を工夫して、こういった個体差が大きいデータを評価する方法を工夫している。前置きが長くなってしまった。「株式会社ふぇの」については、本稿の最後に再度紹介したい。 記事全文>>