引地達也(ひきち・たつや)
コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。
◆幻聴で出られない
東京近郊にある築年数30年を越えたUR賃貸住宅の低層マンションの内部は思ったよりも広く、台所から放たれたリビングルームも西日が入るベランダからの光彩に包まれている。リビングの壁一面には本棚が整列し、びっしりと本が並んでいる。眺めてみればきれいな書斎の風景だが、本の背表紙は「ワーキングプア」「自殺」「ニート」「下流」「借金」。社会的に人の存在を脅かすネガティブな言葉ばかりが目立つ。
ここの主(あるじ)である私の目の前でうつむきがちの姿勢でたたずむ40代の無職の男性は、外に出ればすべてが「自分を馬鹿にしている」という幻聴と思い込みに悩み、仕事に就く自信がない。母親との2人暮らしだが、今のところ家事をするのが生きがいという。
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