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ネガティブメディアは繊細な心に突き刺さる
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第64回

12月 18日 2015年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆幻聴で出られない

東京近郊にある築年数30年を越えたUR賃貸住宅の低層マンションの内部は思ったよりも広く、台所から放たれたリビングルームも西日が入るベランダからの光彩に包まれている。リビングの壁一面には本棚が整列し、びっしりと本が並んでいる。眺めてみればきれいな書斎の風景だが、本の背表紙は「ワーキングプア」「自殺」「ニート」「下流」「借金」。社会的に人の存在を脅かすネガティブな言葉ばかりが目立つ。

ここの主(あるじ)である私の目の前でうつむきがちの姿勢でたたずむ40代の無職の男性は、外に出ればすべてが「自分を馬鹿にしている」という幻聴と思い込みに悩み、仕事に就く自信がない。母親との2人暮らしだが、今のところ家事をするのが生きがいという。
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開かれた心を導く、開かれた場所の開かれた対話の可能性
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第63回

11月 27日 2015年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆被災地から都会の事業所へ

松林の向こうから断崖絶壁の岩肌に波しぶきがあたって砕ける猛々(たけだけ)しい音が聞こえる。その岩に守られるようにして立つ高台の民家や集落、避難所となった小さな集会所――。2011年3月11日の東日本大震災で私が支援先として歩き続けたのは、宮城県と岩手県の「最もアクセスが困難で支援が行き届かないところ」だった。その活動は、宮城県・内陸部にある栗原市の牧師とともに「小さな避難所と集落をまわるボランティア」と呼んだ。

私は毎日新聞記者時代の阪神・淡路大震災など、共同通信記者時代を含め災害取材の経験から、活動が生まれた。記者仲間や研究者、キリスト教会のネットワークを通じて広がり物資の提供や傾聴など、甚大な被害の中での小さな活動だが、かけがえのない新たなつながりが生まれたのも事実である。
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新聞調査 安全保障関連法案「参議院審議中」における考察
新聞各紙の1面における占有率という視点から(下)
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第62回

11月 13日 2015年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆扱いは東京が突出

前回説明した1面におけるニュース編集の面積は以下の通りである。小数点2位以下は切り捨て(単位は平方センチメートル)
朝日 963.7
読売 1053.9
毎日 1096.0
産経 1407.3
東京 1112.8
そして、参議院の審議入りである7月27日(同日付新聞)から採決日(翌日付新聞)までの一面のニュース編集可能面積に対する安保関連法案の記事面積=占有率は以下の通りである。
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新聞調査 安全保障関連法案「参議院審議中」における考察
新聞各紙の1面における占有率という視点から(上)
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第61回

11月 06日 2015年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆忘れてないか安保法案

2015年、日本の安全保障政策は大きな分岐点にある。誰もがそう言う。しかし安全保障関連法案の国会可決、成立からまだ2カ月だというのに、世の中から忘れ去られようとしているのが現実。だから、再度ここで報道検証という切り口で考えてみたい。

まずは安保法案成立の流れを総括する。14年12月に「アベノミクス」「消費増税」を公約に掲げて衆議院を解散し、総選挙を行った安倍晋三首相は、自民党とともに連立与党を形成する公明党と絶対過半数を獲得する大勝利を収め、政権基盤を盤石なものとした。そして、15年5月15日に安全保障に関する憲法解釈を変更する方針を説明。「平和憲法」を転換するものとして、各社の世論調査では反対の声が根強く、公聴会では与野党が推薦する憲法学者3人がそろって「違憲」との見解を示し、学者のグループや学生、若者、主婦や高齢者層など広い階層で反対運動が展開された。その中で同法案は7月16日に与野党などの賛成多数で衆議院を通過し、参議院に送付された。
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イサーン地方の曇天と「心の問題」への展開
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第60回

10月 23日 2015年 文化

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆それは近代国家の「隔離」

タイ東北部のイサーン地方といえば、不安定な気候で収穫量の見通しが立たず、言語も隣接するラオスやカンボジアなどに近い方言を話すため、バンコクから見れば、この地方の人びとは差別の対象とされてきた歴史がある。

都市化が進む国では、そのような文化が違う貧しい地域出身者を蔑(さげす)むのが法則的に存在するようで、韓国のそれは全羅南道であり、日本では、かつての東北であり、沖縄であった。この差別は中央集権化した発展により生み出されたものともいえ、政変を繰り返しているタイではあるが着実に生活は進歩している。しかし、その恩恵は地方にどれだけ及んでいるのだろうか。
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精神疾患者が隠されるような社会と東京五輪の高揚感
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第59回

10月 09日 2015年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆近代国家の「隔離」

精神疾患者の中で多数を占める「統合失調症」という症状名が、社会で使われてはじめたのは2002年8月。それから13年が経過した。それまでは、人格否定的な表現である「精神分裂病」が1937年から65年もの間使われ続けた。偏見に満ちたこの表現の変更を全国精神障害者家族連合会が日本精神神経学会に要望したのが1993年だから、変更までは10年かかり、そして定着までにまた10年以上(まだ定着していないという指摘もあるが)かかったことになる。

この名称変更の流れとともに、この症状が人格とは別であり、回復するものであるという実態も解明されてきたが、それが広く社会に浸透しているとは言い難い。悲しいかな、日本社会の根深い精神疾患者への偏見が阻害要因となっている。偏見をつくりだしてきたのは、政治であり、社会であり、われわれ自身であったこと、そして今もその可能性があることを強く自覚すべきだと強く思う。
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「オープンダイアローグ」の可能性
人と社会と精神疾患をつなぐ場(下)
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第58回

10月 02日 2015年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆モノローグから出発

統合失調症をはじめとする精神疾患者を、薬に頼らず「対話」で治癒する「オープンダイアローグ」について、前回の概要に続いて、今回はポイントを絞って、その可能性を探っていきたい。

私はこのメソッドを知り、自分が責任を持ってカリキュラムを運営する精神疾患者向けの就労移行支援事業所シャローム所沢(埼玉県所沢市)での展開を念頭に、その関係者の方々との交流や語り合いの中で得られた知見をもとに、その運用について思案中である。そして、仲間も必要だから、「入り口に立ちながら」、仲間を待っている。今回のポイントは私の現段階における理解から得たものであり、これから進化していく出発点。
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「オープンダイアローグ」の可能性
人と社会と精神疾患をつなぐ場(上)
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第57回

9月 18日 2015年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆精神疾患を治癒

私は今、統合失調症をはじめとする精神疾患者を、薬に頼らず「対話」で治癒する「オープンダイアローグ」の手法に惹(ひ)かれている。毎日、精神疾患者の方との面談や相談、支援活動で対面し話をし、自分にとっては新しいその人の持つそれぞれの世界、苦悩、家族の心配に触れて、医者でもなくカウンセラーでもない私が何をすべきかを考えるとき、この対話手法は、魔法のような響きで、その人たちが治癒されるのかもしれない、という希望に誘う。

実際、数人の精神疾患者の家族に「オープンダイアローグ」を説明しているが、これまで精神科医の診断でも薬の処方でもカウンセラーの指導でも、好転しなかったことで希望を失った家族には、対話で解決できるとは、即座に信じられないかもしれない。
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「ケアメディア」の確立を目指して
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第56回

9月 04日 2015年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆報道とボランティア

今の世の中に必要なメディアを構築することを目的に、私は現在「ケアメディア」の概念化確立を目指している。大学院という研究の場と、就労移行支援事業所という実践の場に加えて、多くの見識のある人らと触れ合い、話し合い、教えを請いながら、実践として有効な「ケアメディア」を提示したいと思っている。その前提となるこれまでの話を整理したい。ケアメディアの言葉は、実は日本では検討されていない領域である。文言として登場しているのは、小玉美意子・元武蔵野大教授の著書『メジャー・ケア・シェアのメディア・コミュニケーション論』 であり、この中で小玉元教授はこう指摘する。

「メディアの役割は、ジャーナリズム論でよくいわれるような『社会的影響力の大きな出来事』『異常な出来事』を取りあげて、社会に警鐘を鳴らすことだけなのだろうか。いや、時として、人を温かく包み、励ましたり癒やしたりすることも必要であるにもかかわらず、これまでの典型的なジャーナリストたちは、それらを社会的に必要なメディアの役割として認識することが少なかったのではないか」
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政治のセロトニンはどこへいった
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第55回

8月 28日 2015年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆「進撃の巨人」化

安全保障関連法案の参院での審議の最中、国会前のデモも連日、にぎわいをみせている。シュプレヒコールをあげているだけではない。法案が成せる行動を想像し、戦争を知らずに育った若者が、戦争を想像し、それに拒否反応を示す意味ある内容の演説もある。それがソーシャルメディアで拡散している。ライブのデモが新たなコミュニケーションツールで全国に広がる様相を示している。この声に9割以上が「戦争を知らない」政治家たちはどう応えるのだろうか。

このまま法案を突破させてしまうのならば、政治は正常な判断ができるのかと疑いたくなる。それは、社会生活を営むために必要な脳内神経伝達物質である「セロトニン」の分泌が止まった、脳としての機能が低下した凶暴な怪獣に過ぎないのではないか。今風に言えば、政治や国会は「進撃の巨人」である。このイメージに従えば、市民はただ踏みつぶされていくぼろ雑巾のような犠牲者でしかないことになる。
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