山田厚史(やまだ・あつし)
ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。
中島敦の小説「山月記」は、若くして科挙に合格した俊才が、内面の弱さからトラになってしまう中国の逸話を下敷きにした秀作である。トラになった男は、友人に遭遇し、藪(やぶ)に身を隠して独白する。
「臆病な自尊心と尊大な羞恥心が私をトラにしてしまった」
自尊心は尊大になりがちで、羞恥心は臆病と重なるのが普通だが、敢えて言葉を入れ替え、「臆病な自尊心・尊大な羞恥心」とした表現に心がざわついた。社会に目を向けると、揺れ動く自尊心や羞恥心が世論を惑わし、政策を動かすことが少なからず起きている。
◆「劣情」を煽る日本の政治家
アメリカでトランプ大統領がソマリアなど紛争国出身の女性議員を念頭に、「もといた国に帰って、破綻(はたん)し犯罪まみれになった国を立て直すのを手伝ったらどうか」とこき下ろした。「偉大なアメリカにやって来たのに、アメリカに文句が」あるなら国に帰れ」という趣旨の差別発言。非難轟々(ごうごう)だが、「よく言った」と喝采(かっさい)する支持者は少なくない。 記事全文>>