п»ї 高齢化する世界のメガ都市とその影響 『国際派会計士の独り言』第27回 | ニュース屋台村

高齢化する世界のメガ都市とその影響
『国際派会計士の独り言』第27回

5月 08日 2018年 経済

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内村 治(うちむら・おさむ)

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オーストラリアおよび香港で中国ファームの経営執行役含め30年近く大手国際会計事務所のパートナーを務めた。現在は中国・深圳の会計事務所の顧問などを務めている。オーストラリア勅許会計士。

英紙フィナンシャル・タイムズ(4月21日付週末版)に掲載された世界の主要都市:年齢問題の中の2011~16年の主要都市・地域の不動産価格の上昇率をみると、ニューヨークのアッパー・ウェストサイド31%、ロンドンのフルハム36%、香港のモンコック19%、シドニーのバルメイン41%――などとなっています。今回はこの記事を元に、私がかつて住んだシドニーや香港などの事例を挙げながら、世界のメガ都市の高齢化とその影響などについて考えてみたいと思います。

◆シドニー、香港、東京

これまでは、大都市に若者が吸い寄せられ夢に向かって努力していくというのが人生の成功への一つのルートでした。しかし、最近では、都市に住む人たちの平均年齢が少しずつ上がる一方で不動産価格の急激な上昇により若年層が都市部中心から離れています。ロンドンはかつて、吸い寄せられて「流入」するのは若者、「流出」していくのは高齢者でした。

同紙は、医療の改善やライフスタイルの変化、出生率の低下などもその理由として挙げていますが、不動産価格の上昇が大きな要因となって若者が流出し、ロンドンでも55歳以上64歳以下の壮年層の人口が12%増えているといいます(ただし当然、将来的にこれらの大都市の不動産マーケットが沈静化し、不動産価格の継続的な上昇というトレンドが変化してくる可能性はあるとしています)。

大都市の住民が高齢化に伴ってコストの安い郊外や他の地方都市などに移っていくケースもいまだに多いでしょうが、都市に住むことによる利便性を大切にして都市に残る高齢者も多いのかもしれません。これについて、最近の英誌エコノミスト(4月21日~27日号)の記事にもありましたが、最近の米国の若者は、郊外で普通に見かける自動車や花壇には興味があまりなくとも、以前の世代と比べて都市部ではなく郊外に住む傾向があるそうです。

ロンドンやニューヨークなど先進国のメガ都市では、不動産賃貸含め生活コストが高止まりしてしまうと、労働生産力が高く若い労働力の流入が減るとともに産業のイノベーションを生み出すだろう高度技術層の流入まで少なくなってしまう可能性が高いと思います。

シドニーで生まれ育ち、プロフェッショナルとして勤務する若者たちに聞いたところ、大きな不満の一つとして不動産価格が上がりすぎて通勤範囲内では住宅が買えないことを挙げていました。香港の状況はもっと深刻で、もともと利用価値の低い山間部や公営土地が多く、東京23区の面積と同じくらいにしか住宅ができる適当な地域がないという地理的な制約もあり、すさまじく高騰化しており住宅用マンションが全く買えない、場合によっては借りることすらできないという不満も聞いたことがあります。オーストラリアも香港も、いわゆる相続税や贈与税がないため親子間などの資産移動が容易にできることで親が若年層の住宅購入の資金の一部を提供しているという指摘もあります。

では、東京はどうでしょうか? 経済などあらゆる意味で一極集中が起こっている東京でも、高齢層が郊外の住宅を売却した資金などを元手に中心部の港区や千代田区の豪華なマンションなどに移り住むのが静かなブームになっているという記事を読んだことがあります。私の周りでも、定年退職をきっかけに子供たちが巣立ちしていた友人夫婦が、湘南の家を売って都心部に引っ越しました。交通や買い物なども便利で再就職先も近く、車を運転しなくとも済むというのも一つの理由でした。確かに、夕食の飲食店にもコンサートや美術館にも歩いたり、タクシーですぐに行けたりして、その利便性は高いでしょう。

東京というメガシティーでの更なる高齢化は、少子化という次の世代にとって大きな負担となる課題がある中で、医療介護などのサービス需要が増加する一方でその担い手が更に足りなくなることも想定されます。今後は、AI(人工知能)やロボティックスなどによるサービスイノベーションや、海外からも含めた人材の効果的な育成が望まれるところです。

◆中国・深圳

一方、中国などアジアの新興国では都市化率が2014年時点で50%以上になるなど大都市への人口流入が続いています。若年層が所得や就業の面で魅力的な都市に移り住んでいくことで、生産活動が活発化・高度化する中で彼らの所得が増え、その結果旺盛な購買力によって消費が拡大し、更にビジネスチャンスが増えるという好循環が生まれます。ただし一般的には、都市部への人口集中によって、若者の貧富の格差が生じることによる治安悪化、インフラ未整備による道路の渋滞、ゴミ処理などの不十分な行政サービス、大気汚染などの環境問題などいくつもの課題が出てきます。また、物価や不動産賃貸料の高騰なども更なる成長の課題になる可能性があります。中国は最近、35年間続いた一人っ子政策を廃止しましたが、急速な少子高齢化の傾向も中国のメガ都市にとっては大きな課題です。

例えば、深圳はITや電気自動車など新しい産業の伸長により経済成長が目覚ましく世界からも注目されていますが、他の地域から若年層の流入が続き人口は20年前の600万人から1200万人に増えています。平均年齢は34〜35歳と若く、それが活力となって更に消費市場が拡大(2016年の1人当たりGDPは2万5200米ドル)し、また幾つかの産業は高度化し世界の最先端を走っているとされます。

深圳では、他の華南地域で日常聞かれる広東語ではなく、中国の標準語、普通語が一般的に使われています。地下鉄を中心に公共交通網も整備されていて中国各地から新しい人材が流入しやすい環境ができています。都市化の影響として、治安の悪化がありますが、2000年代初頭の深圳は当時の新聞によると、隣接する香港と違い、盗難やスリ、誘拐などもしばしばあると伝えていましたが、現在はほとんど聞くことがなくなりました。

ただ、先進国のメガ都市同様、あるいはそれ以上にネガティブな要因として、都市化が不動産価格の著しい高騰を招いています。報道によれば、最近若干下落しているようですが、深圳市の住宅価格上昇率は2015年から1年半ほどで70%を超え、平均年収の70倍でした。また、ゴミ処理、大気汚染、学校の質量が追いつかないという子女の教育などさまざまな問題なども抱えています。

その一方で、金融・経済都市である香港と中国本土の珠海、アジア最大のカジノ・マカオを結ぶ世界最長の海上橋「港珠澳大橋」(全長約55キロ)の開通により、香港、深圳を含む華南地域の一体化による更なるメガ地域への成長を日本企業は新たなビジネスチャンスとして見逃してはいけないのではないかと思います。

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