п»ї 日韓衝突はピークを越えたか 底流に韓国人の対日観の変化 『山田厚史の地球は丸くない』第145回 | ニュース屋台村

日韓衝突はピークを越えたか 底流に韓国人の対日観の変化
『山田厚史の地球は丸くない』第145回

8月 16日 2019年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

先週、3泊4日でソウルへ出かけた。「歴史認識」の問題が経済制裁へと進み、史上最悪といわれるほど悪化した日韓関係を韓国側から見てみたいと思った。

渡航の直前、ソウルの日本大使館をロウソクデモが取り巻いた。日本製品の不買運動が始まり、ニュースでは日本製の文具が捨てられる映像が流れていた。日本外務省は韓国への渡航者に注意を喚起する「スポット情報」を出し、「デモや集会には近づかないように」と呼びかけた。

反日ではなく「反安倍」

日本人と分かると厳しい視線が投げかけられるかな、と一抹(いちまつ)の不安を抱いて金浦(キンポ)国際空港に降り立ったが、そんな緊張感は全くなかった。

試しにバス乗り場を日本語で尋ねても、対応はいたって友好的。空港だからか、と思ったが街中でも取材先でも、刺々(とげとげ)しい対応は感じられなかった。

「お客」は国籍に関係なく歓迎される。日本も韓国も変わらない。

「日本人客、お断り」の貼り紙が釜山(プサン)のレストランに貼られた、という記事を日本で読んだ。ソウルで「日本人お断りの店はないのか」と地元のメディア関係者に尋ねると、「あの貼り紙はハングルで書かれたもので、もともと日本人が訪れるような店ではない。釜山に排日的な空気があるわけではないが、地元紙が報じたので日本のメディアも無視できず追っかけて記事にした。そうしたら日本で大きく報じられ、過剰反応が起きてしまった」。

ソウルでこの種の貼り紙は聞いたことはない、という。

与党の「共に民主党」に近い団体が、ソウルの繁華街・明洞(ミョンドン)に「日本ボイコット」を呼びかけるノボリ旗1000本を立てたところ「商売の邪魔になる」「やり過ぎだ」などとの声が上がり取りやめになった。

対日批判は「2020東京五輪ボイコット」へと広がり、「目抜き通りの交差点に横断幕が出ていた」との情報を聞いて、現場に向かったが、既に撤収されていた。

日本に対する反発や抗議を伝えるニューステレビで頻繁に流れている。だがメディアが伝える「反日」の熱と、街中に漂う穏やかな空気の間に大きな隔たりがあるように感じた。

この「落差」についてハンギョレ新聞の東京特派員でもあった吉倫亨(キル・ユンヒョン)記者は「日本が好きな韓国人が増えているからです。昨年は753万人が日本を訪れた。国民の7分の1が毎年日本に出かけるという現実がある。政治的に反日が叫ばれても日本人を嫌う、というふうにはなかなかならない。最近では、日本人が悪いのではなく、安倍首相の政治がよくない、という受け止め方になってきています」。

反日ではなく「反安倍」だという。ジャーナリストの青木理(おさむ)氏が書いた『日本会議の正体』(平凡社新書)の翻訳本が政治社会部門で第2位のベストセラーになっている。安倍政権の後ろ盾になった右翼勢力が日韓関係を悪化させている、という理解が広がっている、というのだ。

政治対立をよそに暮らしや風俗・ファッションで同質化が進み、日本がかつて米国に憧れたに韓国人の日本に対する好感度は高い。韓国で日本からの旅行者は中国に次いで第2位だが、礼儀正しくおとなしい日本人は、比較的歓迎されているという。

「対日批判」を封印した文政権

日本への有効な報復措置が見つからず、「東京五輪ボイコット」が政権与党から噴き出していた。しかし、世論の支持は盛り上がらない。平昌冬季五輪の成功体験が残る国民には「五輪にまで踏み込むのはどうか」と疑問の声が出ていた。

8月15日の演説で文在寅大統領は「2032年ソウル・平壌五輪共催」を目標として掲げた。南北融和に外交の軸足を置くことを示し、不人気政策になりそうな「東京五輪ボイコット」を封印した。

韓国有力紙・中央日報によると「国際オリンピック委員会(IOC)は韓国に東京五輪ボイコットは避けるべきだ、との見解を示した」という。非協力的な態度を取りながら開催地に名乗りをあげることは難しいようだ。

来年に総選挙がありそうな韓国で、世論の支持を仰ごうと敵をつくって叩く政治家は少なくない。偏狭な愛国主義や経済制裁は、お互いの利益にそぐわないと知りながらも振り上げた拳を下ろすことができない。政権周辺にいる支持者ばかりを見ていると「日本叩き」が票になると思いがちだが、一般の国民はそれほど愚かではない。

韓流ドラマや日本のアニメが両国の距離を縮め、サッカーワールドカップの共同開催が交流を促進した。お互いの国を訪れ、人と人の接触が増えたことで相手国へのイメージが変わっていった。

政治が反日を煽(あお)っても、かつてほどの手応えはなく、反応する層に限りがある。文政権は「対日批判」を封印して局面の打開を模索し始めた。

安倍首相は「手仕舞い」か「追い打ち」か

文政権のシグナルに日本はどう応えるか。ボールは安倍首相の手の中にある。

次の局面は、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA〈ジーソミア〉)の更新だ。韓国が拒否すれば北朝鮮情報を含む機密情報のやり取りができなくなる。破棄となれば、対立は決定的になる。

その前に、安倍首相がどのようなメッセージを発するか。を掛けるのか。

東亜日報の元編集局長・沈揆先(シム・ギュソン)氏はいう。

「韓国人の対日感情は複雑で頭と胸が分かれている。頭で日本は大事な相手と分かりながら、尊大な態度を見ると『胸』がうずく。1910年の日韓併合から始まる拭(ぬぐ)いされない記憶、民族の誇りに目配りしてほしい。日本の政治家が分かっていないと大変なことになる」

不買運動を支持する人は「日本製品は好きです。でも韓国に対する日本政府の仕打ちを見て、自分なりに何かできないか、と思うと、商品を買う時、日本製品を選ばない。ささやかな抗議しかできないから」という。

旅行先を選ぶとき、日本でなく台湾やベトナムを選ぶ、という動きが出ているという。

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