山田厚史(やまだ・あつし)
ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。
自民党で「裏ガネづくり」が露見し、政界は大混乱のまま新年になだれ込む。岸田文雄首相は安倍派の4閣僚を更迭、萩生田光一政調会長をはじめ自民党幹部の入れ替えに着手した。東京地検は「裏ガネ一覧表」を把握しているもようで、国会閉会に合わせて政治家への事情聴取を始める。派閥のパーティーを舞台に組織的になされていた裏ガネは、自民党の屋台骨を揺るがす事態に発展しそうだ。
◆「パー券商法」、安倍派の驕り
「政治資金報告書への不記載は形式犯。珍しいことではない。なんでこんなに騒がれるのか」。そんな声が自民党内に根強いという。
「記載漏れでした、修正します、と届ければ済むこと」というのがこれまでの慣行だった。
安倍派の宮澤博行防衛副大臣は「長年やっているので適法と推測し、指示に従った」と釈明した。割り当てを超えて売ったパーティー券は代金を派閥からキックバックされた。その分は「報告書に記載しなくていい」と指示されたという。
しかし、なぜ「適法と推測」したのだろうか。派閥の事務局の指示だから違法なはずはない、とでも思ったのか。政治資金報告書に記載するな、と言われたら、「変だな」と思うのが普通の感覚ではないか。
「記載しなくていいカネ」は、どう処理されたのか。何に使ったのか。キックバックを受けた議員は説明責任が問われる。
報告書に載せないということは、表沙汰にできる政治活動に使われなかった、ということだろう。表に出せないカネは、所得として申告したとは思えない。派閥からまとまったカネを受け取りながら、納税せず、密かにポケットに入った。「私腹を肥やす」とはこういうことではないのか。
派閥は議員に割り当て(ノルマ)を課し、「ノルマを超えればあなたの取り分」とハッパを掛ける。議員はしゃにむにパー券を売って自分の取り分を増やす。パー券を押し付けられる側は迷惑だろうが「自民党とのお付き合い」「話を聞いてくれる関係をつくるため」と応じる。そんな無理がきくのも、自民党は政権政党だからだ。
1枚2万円のパー券を会場に入りきれないほど用意して、たくさん売った議員には「キックバック」と称する裏ガネを配る。権力の後ろ盾があってこその「パー券商法」が成り立つ。派閥にとっては活動資金集め、議員にとっては税金がかからない闇のカネを調達するチャンスだ。
安倍派は派閥パーティーの「裏ガネ一覧表」を作っていたらしい。議員ごとに「割当額(ノルマ)」「販売実績」「超過分(キックバック)」が記され、すでに捜査当局は入手している、という。
キックバックはそれ自体、違法ではない。パーティーの収支報告書に記載し、受け取った議員側が政治資金報告書に記載していたら、問題にはならない。二階派はそうしていた。報告書に記載、つまりキックバックを表に出し、議員の支払い(議員側は収入)としていた。安倍派は、キックバックを記載せず、裏に隠したから違法が疑われている。総裁派閥として権勢を握り、この程度のルール違反ならとがめられないだろう、とタカを括(くく)っていたのではないか。安倍派の驕(おご)りである。
◆欲しい「表に出したくないカネ」
「金銭スキャンダル」が起こると「政治にカネがかかるから」という声がすぐ上がる。選挙区の事務所、秘書・職員の給与など日常活動にカネがかかる、という。しかし、国会議員には議員会館に事務所があり、選挙区が遠方の議員には国会近くに議員宿舎が用意されている。秘書は政策秘書、公設第一秘書、公設第二秘書の3人を公費で雇うことができる。
議員活動を支えるため歳費(給料)の他に、毎月100万円の調査研究広報滞在費が実費として支払われ、そのうえ立法事務費として65万円が政党経由で支給される。歳費(月額129万4000円)、賞与635万円を合わせると、国会議員の収入は年間4167万8000円になる。国会議員は高額所得者だ。その上、税金から支給される政党助成金(自民党には年間約160億円が支給)があり、その範囲で政治活動をすることは決して困難ではないだろう。
カネがかかる理由として、よく挙げられるのが「陣中見舞い」である。議員同士の交際費のようなもので、地方議員への支援や、仲間の応援などの出費だ。しかし、こうした費用は「寄付」として表に出して政治資金報告書に記載すればいいことだ。パー券のキックバックを「裏ガネ」にしてプールしてそこから出す、という手の込んだことをする必要ない。
あるとすれば、もらう側が「表に出したくないカネ」を欲しがる場合だろう。「領収書がいらないカネ」「資金報告書に書かずに自由に使えるカネ」を欲しがる政治家はけっこう多いという。そのカネは何に使うのか。
東京地検は12月13日、柿沢未途(みと)前法務副大臣の議員事務所などを政治資金規正法違反容疑で家宅捜索した。4月の東京・江東区長選で秘書に指示し、自民党区議5人に各20万円を渡した疑いが持たれている。
こうしたカネは政治資金報告書に記載されない。出所は、政治活動ではない「個人の財布」からだろう。原資は「裏ガネ」かもしれないが、預金通帳に混ざれば「個人のカネ」となる。
政界の事情に詳しい人によると、「裏ガネは、議員個人の財布に入り、蓄財や遊興費に当てられる」という。落選のリスクを抱える議員は、不安定な仕事だ。退職金はなく年金も10年以上勤めなくてはつかない。国会議員にふさわしい暮らしぶりが求められる。
森喜朗氏が首相になった時、東京・瀬田にある立派な自宅が話題になった。選挙区の石川県にも大きな家があり、政治家として成功すると、こんな住宅に住めるのか、と印象深かった。昔は「井戸塀」という言葉があった。政治家になると選挙のたびに財産が減って、最後は屋敷の井戸と塀だけになる、といわれたが、今では豪邸が建つらしい。上手に蓄財できた人に限られたことだろうが、野党議員に比べると、夜廻(まわ)り取材で訪れた自民党議員の家はみな立派だった。
◆自民党のためにある財界献金
コロナが蔓延(まんえん)した時、国会議員も会食自粛を申し合わせた。ところが与党議員の中には自粛をかいくぐって東京・銀座や赤坂の高級クラブに出入りする者がいた。「店が苦しい時こそ応援する」と仲間をつれだって飲みに行った律儀さが裏目に出たのだが、そうした資金はどこから出たのだろう。もちろんポケットマネーだろうが、裏ガネはポケットを膨らます財源だ。
派閥パーティーを利用して関係先企業にパー券を押し付け、キックバックされたカネは税金を払わずポケットに入れる。「政治活動」と称して私腹を肥やす裏ガネ製造システムが政治資金パーティーなのだ。政権政党だからできることである。
「政治とカネ」は自民党にとって結党以来の課題である。1988年にリクルート事件が発覚し、大掛かりな疑獄事件に発展した。翌年に佐川急便事件が表面化し竹下内閣が崩壊、自民党副総裁の金丸信氏が受領した5億円が問題になった。
カネまみれの自民党に有権者は愛想をつかし、93年に細川護煕(もりひろ)内閣が誕生、政治資金規正法が改正され、政治家への企業献金は禁止された。
代わってできたのが政党助成金だ。腐敗につながる政治献金をやめて政治活動に必要なカネは税金で補填(ほてん)する、という制度だ。国民1人当たり250円、総額315億円を政党の規模に応じて配布する。1993年から始まり、制度に反対した共産党は受け取りを拒否しているが、自民党は年間約160億円を受領している。
ところが経団連は、2004年から自民党への献金を復活した。小泉政権で経済財政諮問会議のメンバーになったトヨタ自動車の奥田碩(ひろし)会長(当時)が主導した。政党助成金をもらいながら、さらに20数億円を財界から受け取る。税金と献金の二重取りである。
それが09年、民主党が政権を取ると、献金は中止された。自民党が政権を取り戻すと経団連は2014年、また献金を復活させた。当時、財界は法人税の引き下げを求めており、経団連の榊原定征会長(当時)は「政治家に話を聞いてもらうには付き合いが必要」と述べている。
ことほどさように、財界からの献金は自民党のためにある。自民党が政権から滑り落ちると、献金は自粛され、政権に復帰すると復活させる。
◆「税金・献金二重取り」許した有権者にも責任
社会的にあれほど指弾された企業献金が、いまだにまかり通っているのは、政治資金規正法がザル法になっているからだ。「政治家個人にはダメだが、政治団体ならOK」。政治団体とは政党だけではない。議員が選挙区ごとに設ける政党支部も献金を受け入れられる。
その上、さらに政治資金パーティーで「裏ガネづくり」が可能となる。
財界が大口の政治献金を復活させたのは、自分たちの都合のいい政策を実現したいから。年間25億円程度の献金で数百億、数千億円の補助金や減税をしてもらえるのなら、喜んで出すだろう。
「程のいい買収」ともいえる。受け取る政治家のモラルを崩壊させたことから「政治活動に必要なカネは、害毒のある献金に代わって税金で負担しよう」と生まれたのが政党助成金だった。だが、ザル法の政治資金規正法の隙(すき)を突き、財界が献金を復活し、「税金・献金二重取り」を許してしまった。
パーティー券は、企業献金の「中小企業版」である。広くカネを集めて裏ガネ製造システムとして機能している。「政治とカネ」がスキャンダルを起こすたびに「政治改革」が叫ばれるが、反省したふりをする自民党に有権者はごまかされてきた。まな板のコイに包丁を握らせてしまった私たちにも責任がある。
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