п»ї 成果があった政倫審 見えた政治家の倫理観 『山田厚史の地球は丸くない』第258回 | ニュース屋台村

成果があった政倫審
見えた政治家の倫理観
『山田厚史の地球は丸くない』第258回

3月 08日 2024年 政治

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

「政治倫理審査会」とは、読んで字の如(ごと)く、である。政治家の倫理感が丸わかりになる審査会だった。たいした期待はしていなかったが、いまの政治家は、この程度の人物なのか、ということがよく理解できた。自民党派閥を舞台にした裏ガネづくりは、いつ、どこで、だれが、どんな意図でなされたか、など肝心なことはさっぱりわからなかった。それはそうだろう。政倫審はウソついたら偽証罪になる国会喚問とは違う。疑いをかけられた政治家の「弁明の場」として設けられた。

◆「なにをやっても大丈夫」増長する権力者

舌先三寸の言い訳で逃げることもできる。ウソをついているのか、真実を語っているか、審査するのは有権者だ。その結果、弁明の場は、火に油を注ぐ結果となった。派閥事務総長は、次の時代「親分」を狙えるポストだ。トーナメントで言えば準々決勝進出をうかがうポジションだが、国会中継で映し出された受け答えを見る限り、「自民党の次のリーダーって、この程度の人?」という印象を持った人が大多数だったのではないか。

東京地検特捜部は、派閥の会計責任者や議員秘書など8人を「政治資金規正法違反」の容疑で起訴している。派閥パーティーを利用した裏金づくりは犯罪だとしている。派閥がらみで刑事事件に問われたのは事務職員だけだが、億円単位のカネの操作を派閥の裏方が独断でできるわけがないことは政治家なら知っている(二階派〈志帥会〉の武田良太事務総長が政倫審で「会計責任者にすべて任せていた」と発言したことに、元二階派衆院議員だった金子恵美氏は「私が知っている二階派は、そんなことありませんでした」と新聞紙上で語っている)。

東京地検が刑事事件として立件できたのは派閥職員までだったが、世間は、上司であり、派閥を取り仕切る事務総長や会長(安倍派は安倍晋三・細田博之両氏とも死亡)の責任を問題にしている。立場の弱い派閥職員に罪を着せて、政治家は逃げるのですか、と政治的・道義的責任を問うていた。

政治家の心得の一つに「李下に冠を正さず」がある。李(スモモ)がなっている木の下で冠に手をかけると李を盗んでいると間違われかねない。政治家は疑いを持たれるようなことはしてはいけません、ということである。それが「疑いを避ける」どころか、「バレなければいい」「うまく逃げればいい」と言わんばかりの振る舞いが政治家に目立つようになった。

安倍政権の頃、森友学園・加計学園・桜を見る会の顛末(てんまつ)が物語っている。安倍首相は国会で108回も事実と違う答弁を繰り返した。ウソを隠すため財務省は公文書の改竄(かいざん)までした。「証拠をつかまれなければ、やったもの勝ち」の成功体験は政権政党の倫理観をまひさせ、安定多数と政権の長期化が「なにをやっても大丈夫」と言わんばかりに権力者を増長させた。

◆「驕れる者は久しからず」世の倣い

「ダイバーシティー円卓会議」というのをご存知だろうか。女性経営者のネットワークづくりなどを行っている佐々木かをりイーウーマン社長が主宰する「ネットワーク会議」。テーマを設定し、会員が賛否を投票し、1週間かけて意見を述べるささやかな討論の場で、私は議長の一人として参加している。

今週のテーマは「政治倫理審査会。成果が出ると思いますか?」。この問いかけに9割近い人が「NO」だった。「罰則がなく出席も本人次第で何が解明されるというのか、本当にくだらない」などと怒り、あきれる意見が目立った。「では、どうすればいいか」という問いに対して、「次の選挙で自公に投票しないことで、怒りを示したい」「間違いを犯した者には罰を加える」と投票行動で示そう、という意見が少なくなかった。

政倫審は「裏ガネ疑惑の真相解明」では成果がなかったが、政治家の正体が垣間見えた審査は、人々の怒りに火をつけた。政策以前に「こんな人たちに政治を任せていていいのだろうか」という不信感は一段と強まった。いまの与野党の勢力を比べると「政権交代」がいきなり起こるとは思いにくい。しかし、ジリジリ変わる政治構造は、あるときガラッと変わることがある。

自民党内では危機感を募らせる一方で、「時間が経てば忘れる」という淡い期待が漂っているという。失敗を犯しても自己修正できないのがこの政党の弱点だが、もり・かけ・サクラの不祥事もそうやって乗り越えてきた。

世の中にはニュースや刺激があふれている。人々の記憶は次々と上書きされ、政権は一番都合のいい時に国会を解散して民意を問う。資金だって与党は豊富だ。なんといっても政府予算を握っている。恩恵を受ける企業、業界、団体は権力寄りだ。長期政権で培った盤石の基盤の上で与党は選挙に臨む。勝って当たり前、利害関係者は強いものに群がり、長期政権は続く。そうした政権の好循環が「驕(おご)り」となって足元を崩し、誰の目にも明らかになったのが政倫審だ。

「政権交代は簡単には起こらない」と、政治に近い人はいうが、素人目には「自民党は崩壊過程」に見える。「驕れる者は久しからず」は世の倣(なら)い。強さが故に内部から壊れていく。止めようにも、止まらない。

次は、時代の風に乗った勢力が現れ、取って代わる。与党の分裂から生まれるか、野党から出てくるか、それとは全く違うところから現れるか。楽しみはここにある。

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