п»ї 安倍改造内閣、肥大化する「官邸ポリス」 『山田厚史の地球は丸くない』第147回 | ニュース屋台村

安倍改造内閣、肥大化する「官邸ポリス」
『山田厚史の地球は丸くない』第147回

9月 13日 2019年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

9月11日の内閣改造は「小泉進次郎氏の入閣」にメディアは群らがった。これは「目くらまし」である。「首相後継をめぐる競い合い」「在庫一掃セール」などと囃(はや)される陰で、「官邸ポリス」が一段と力を増している。

「公安系警察官僚」が前面に

安倍政権は霞が関で「経産省政権」と呼ばれてきた。首相の政務秘書官である元資源エネルギー庁次長の今井尚哉氏が政策立案から外交まで仕切る側近として権勢をふるい、同じ経産省OBで首相補佐官である長谷川栄一広報官と組んでメディア対策の要になっているからだ。ところが今回の内閣改造で、安倍政権は警察と経産省に依存する「警経政権」の色が濃くなった。警察権力の肥大化である。

内閣情報官だった北村滋氏が13日付で国家安全保障局長に就任した。国家安全保障会議(NSC)の事務局を統括するポストで、これまで元外務次官の谷内正太郎氏が務め、安倍外交を支えてきた。NSCは首相を議長に外相・防衛相・官房長官で組織される外交・防衛の要。米国をはじめとする友好国と安保・テロ情報を交換するだけでなく、緊急事態が起きた時や米軍の後方支援など武力行使を決定する重要な国家機関だ。ここを警察官僚が差配することになった。

北村氏は内閣情報官であり、政治経済を含めた公安情報を集める内閣調査室の室長を兼務していた。「安倍首相と面会する頻度が一番高い人物」とされる側近中の側近である。

今井秘書官と同様、第1次安倍内閣の時に、警察庁派遣の首相秘書官を務め、安倍氏と個人的関係を築いていた。2012年に発足した第2次安倍政権で内閣情報官になり、政治家の「身体検査」、与野党・官庁情報を報告する役回りで首相の懐に飛び込んだ、と言われる。

谷内氏は、外務省本流の親米派官僚で、先日解任されたボルトン大統領補佐官などとパイプがあり、日米首脳をつなぐ役割を果たしていた。こうした外務省の「人脈外交」に対し、国境を越えて公安・防衛情報を共有する「インテリジェンスの重要性」を説く警察庁が優位に立ったことをこの人事は示している。

北村氏は特定秘密保護法や安保法制を安倍首相側近として進めた一方で、文部科学事務次官だった前川喜平氏の「出会い系バーへの出入り」を読売新聞にリークしたこと、TBSの元ニューヨーク支局長の「レイプ疑惑もみ消し」への関与などが疑われていた。

裏方に潜む「御庭番」のような「公安系警察官僚」が前面に出たことが安倍政権の特徴でもある。官邸でその中核にいるのが杉田和博官房副長官。1966年に警察庁に入り、ほぼ一貫して公安・警備畑を歩み、第二次安倍政権が発足すると同時に官房副長官に抜擢(ばってき)された。

副長官は3人いるが、衆参両院から政治家が1人ずつ、それと官僚出身者が1人。霞が関を束ねるのが事務の官房副長官。つまり警察官僚が霞が関の頂点に立っている。

杉田副長官は、審議官以上の官僚人事を統括する内閣人事局長でもある。文科省の前川事務次官(当時)を官邸に呼んで「こんなところに出入りしているのか」と問い詰めるほどの官僚の個人情報を握り、にらみを利かす存在だ。すでに78歳と高齢になったため、天皇の代替わりを区切りに退任する、と見られていたが、今回の改造人事で留任となった。

政権内部で進む?「警察国家化」

『官邸ポリス 総理を支配する闇の集団』という小説が昨年、講談社から発刊された。著者の幕蓮(まく・れん)は「東大法学部卒業 警察庁入庁 そのご退職」とあるだけの覆面作家だ。

小説と言いながら、首相官邸をめぐる時局の動きを織り込み、杉田氏や北村氏をモデルにした人物が登場するノンフィクションまがいの読み物だ。首相夫人がからんだ森友学園、加計学園がらみで起きた文科相の内部告発と文科次官への監視、詩織さんレイプ疑惑で逮捕寸前の「アベ友記者」を救った経緯などが素材となっており、名誉棄損訴訟を回避するため小説仕立てにしたのか、と思うほど、ありえそうな話として描かれている。

デジタル情報化で監視社会が加速し、警察が政治と合体する「警察国家化」が政権内部で進んでいることを描いた小説だが、今回の改造人事で、この方向へとギアが一段上がったように思える。

北村氏の後任の内閣情報官には、警察官僚で国際テロ情報収集ユニット統括官の滝沢裕昭内閣審議官が就く。内閣情報調査室長を兼務する。

官僚人事を握る官房副長官、外交・防衛の機密を他国と交換する国家安全保障局長、政界・官界の情報を集める首相にご進講する内閣情報官。三つの権力を警察官僚が握った。

小泉進次郎氏の入閣をメディアが囃している陰で、警察国家の影が濃くなった。

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