п»ї 千葉・銚子でも身勝手な加計学園経営破綻「撤退」尻は行政『山田厚史の地球は丸くない』第268回 | ニュース屋台村

千葉・銚子でも身勝手な加計学園
経営破綻「撤退」尻は行政
『山田厚史の地球は丸くない』第268回

8月 02日 2024年 社会

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

購読している朝日新聞の千葉版に「加計学園」の記事が目立つようになった。

安倍晋三元首相の親友・加計孝太郎氏(73)が家業として経営するあの学校法人である。首相の威光で行政をねじ曲げ、獣医学部を愛媛県今治市に設立し、「縁故政治」が問題になったのは8 年前。今度は財政難にあえぐ千葉県銚子市を舞台に「身勝手な加計学園」が話題になっている。

千葉版を賑わせているのは、加計学園が千葉県銚子市に設立した千葉科学大学(2004年開学)。今治の獣医学部に劣らず「政治主導」で生まれたこの大学は、開設20年足らずで経営が破綻(はたん)し、「撤退」「身売り」が騒ぎとなっている。

◆悪化する大学経営の肩代わりを市に要求

発端は2023年10月11日、加計孝太郎理事長が越川信一銚子市長に宛てた要望書。

「社会環境の変化に対し、大学が銚子市を中心とした東総地区の知の拠点として存続し、地域活性の一翼を担う役割を果たすため、公立大学法人化を実現して頂きたい」

他人事のように、もっともらしく書いているが「経営が悪化し、私学としての運営に行き詰まった。あとは銚子市が引き取って面倒を見てくれ」ということである。

「公立化」でイメージアップし、税金投入で授業料を安くすれば応募者は増える、大学運営には国から交付金が出ることなどを並べたて、経営の肩代わりを求めた。

同大学の2023年度入学者は定員の半分にも満たない228人だった。年々ひどくなる定員割れで経営は急速に悪化している。少子化の日本では学生の確保が難しく、ベトナムやモンゴルにまで募集活動を広げたが、それでも定員は埋まらない。

現在、薬学部、看護学部、危機管理学部があるが、国家試験の合格率が低く、中途退学率が高いという問題も抱えている。越川市長は、大学の存続を望みながらも公立大学化は大きな財政負担が生じるのを心配し、学部学科の規模縮小や薬剤師・看護師の合格率を上げるなど「教育の質の確保」が必須の条件だとしている。

銚子市は、有識者10人による検討委員会を設けて対応を模索している。第1回審議会に出席した加計学園の専務理事は「公立大学法人化ができないのであれば、来年度から撤退することを考えなくてはいけない。在校生の教育、研究は続けるが、25年度から学生募集は停止する」と発言。公立になって募集が改善した大学を例に挙げ、財政支援があれば経営は改善する、と主張した。

「公立大学化」という要請を認めないなら「撤退・募集停止」という脅しめいた姿勢に、検討委員会のメンバーは違和感を覚えたようだ。座長の矢尾板俊平・淑徳大地域創生学部長は「審議会の冒頭で議論を制約するような発言があったのは遺憾」と述べた。

◆「行政依存=負担は地元自治体に」という手法

加計学園の「行政依存=負担は地元自治体に」という手法は、千葉科学大の開設時から問題視されていた。始まりは2002年の銚子市長選だった。

「大学誘致」を公約に立候補した自治省OBの野平匡邦(のひら・まさくに)氏は「若者が集まる大学を開設する。私にはその力がある」と訴えて当選した。野平氏が市長に就任すると、加計理事長が「銚子進出」を表明。市長は15ヘクタールの用地を無償で提供、建設費の半額に当たる93億円を支給することを決めた。

税収250億円の3分の1を超える資金を市が提供したことで、千葉科学大は2004年に開学。一方、市は、補助金捻出(ねんしゅつ)のために借金を重ね(市債発行)、利払い・返済に追われた。銚子市は財政難に陥り、市民病院の閉鎖にまで余波は広がった。財政支援は市議会でも問題になり、加計学園は一部返金に追い込まれるなどトラブルが続き、野平市長は次の選挙(2006年)で再選を阻まれた。

こうした中で、野平氏と加計理事長の「濃密な関係」があぶり出される。自治官僚だった野平氏は岡山県副知事をしていた時、地元の有力者である加計氏と知り合い、副知事をしながら加計学園岡山理科大で講師をしていた。その後、消防庁審議官を経て退職したあとも岡山理科大で客員教授となり、故郷・銚子の市長選に備えた。

関東進出をもくろむ加計氏にとって野平氏は尖兵(せんぺい)だった。市長として送り込み、大学誘致の路線を引かせ、財政支援を引き出した。

◆「肩書とお手当」提供する仕組み

千葉科学大学は、加計ファミリーにとって政治家や官僚OBを処遇する場にもなった。加計学園が国会で問題化した頃、官房副長官は安倍首相の側近・萩生田光一氏だった。萩生田氏は09年の総選挙で落選すると千葉科学大は客員教授で迎えた。落選中「肩書とお手当」を提供する仕組みだ。安倍首相秘書官から参議院議員になった井上義行氏も浪人中は客員教授に迎えられていた。

獣医学部の疑惑が持ち上がった時、裏で暗躍した木曽功氏(文科省OB・元ユネスコ大使)の行動が問題になった。「加計学園に獣医学部を認めることは首相のご意向」と文科省事務次官だった前川喜平氏に働きかけた。木曽氏は当時、首相の特命事項を担当する内閣参与だった。それが2016年、千葉科学大学長・加計学園理事に就任、昨年まで8年間務めている。首相側近を匂わす内閣参与という名刺を使い、国家戦略特区という規制緩和をテコに獣医学部の枠に加計学園をねじ込むのが木曽氏の役割だった。

野平氏も木曽氏も加計にとって「使える持ち駒」だった。安倍首相との関係を軸に側近政治家の面倒を見て、天下り先を探している官僚には然るべきポストを世話して都合よく使う。これが加計学園のやり方だった。お手当目当ての「客員教授」や「天下り学長」で学校経営は大丈夫か。行き着いた先が、「不人気大学」「定員割れ」「経営悪化」「破綻」だった。

◆政治家と天下りを使って行政にたかる

そして対策が「公立大学化」である。今の「3学部+大学院」という体制を維持したまま、銚子市が中心となった「公立大学」にすれば問題は解決する、というのだ。経営失敗の責任はどうなったのか。「公立にしないなら撤退・募集停止」というのは居直りではないか。

銚子市は市内の高校生徒1695人を対象にしたアンケートをとった。1264人が回答したが、千葉科学大の三つの学部(薬学・看護・危機管理)とも「進学を希望しない」とする答えが8割近くを占めた。

検討委員会は、近く結論を出す。4回の審議で①引き続き加計学園が経営することを要請する②難しければ他の学校法人への譲渡③公立大学とするなら、加計学園が応分の金銭(4億円程度)を負担した上で学部を縮小し、看護学部と危機管理学部だけ引き取る――という方向性が確認された。

加計孝太郎氏は昨年、理事長を退き、息子で副理事長の役(まもる)氏(49)が就任した。孝太郎氏は「学園長」として実権を握っているという。

政治家と天下りを使って行政にたかる、という加計流ビジネスは、世襲可能だろうか。千葉科学大のこれからに注目したい。

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