п»ї 「開示請求」で内部告発―奢り・緩み・文書偽造の経産省に 『山田厚史の地球は丸くない』第161回 | ニュース屋台村

「開示請求」で内部告発―奢り・緩み・文書偽造の経産省に
『山田厚史の地球は丸くない』第161回

4月 17日 2020年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

犯した失敗より、失敗を隠すため公文書を偽造したことが問題なのだ。より深刻なのは、発覚しても「軽い処分」にとどめ、緩み切った役所の対応を首相官邸が黙認したことである。

行政の末端から権力中枢まで、一気通貫でモラル崩壊が起きている。

◆上層部は知らされていなかった?

「菓子折の底に小判」という古典的な賄賂まで露見した関西電力に、業務改善命令を出した経済産業省資源エネルギー庁は、必要な手順である電力・ガス取引監視等委員会(電取委)からの意見聴取を忘れていた。3月16日のことである。

命令を発出した後になって、電取委の事務局が気づいた。エネ庁は、失敗を取り繕うため電取委を書面会議で開き、議論もないまま、前日に会議を開いたことにして、15日付の書類を作り、ごまかした。

経産省の報道発表資料によると、「担当者は、業務改善命令の手続きに不備があったとなれば、対外的な批判は免れないとの懸念から、実際は3月16日(月曜日)に意見を求める行為がなされるものの、業務改善命令の発出前に意見を求めていたかのように体裁を整えるため、3月15日(日曜日)付で電取委に意見を求めることを決裁する方針を考案」とある。

電取委事務局から「手順飛ばし」を指摘されたエネ庁の担当者は肝を冷やしたことだろう。業務改善命令の担当部署は、電力・ガス事業部の政策課だった。

「担当者は、上司である管理職級職員に考案した方針を相談。同管理職級職員はこの方針を了解するとともに、実行を指示。同管理職級職員自ら、3月15日(日曜日)付で意見を求める旨の決裁を行った。また同担当者は、上司である指定職級職員にも方針を報告した」と隠蔽(いんぺい)の過程を説明している。

経産省でこの手の仕事を担うのは課長補佐クラスだ。担当者は政策課課長補佐だろう。管理職級というのは課長職、その上司である指定職級職員とは部長職であることを経産省は認めた。

課長補佐から「大変なことになりました」と報告を受けた課長は、「で、どうする?」と問いかけたのだろう。キャリア官僚は、ミスを報告するときは対策をセットにすることが求められる。

発表文にある「上司である管理職級職員に考案した方針を相談」というのは、「事前に電取委の意見を聞いたことにします」と課長補佐が提案した、という趣旨である。

政策課長はこれを「了解」し、決済文書を作成、電力・ガス事業部長に報告した。つまり電力・ガス事業部の村瀬佳史部長の了解のもとで吉野栄洋(しげひろ)政策課長の判断でなされた、と推察される。

政策課長は部の筆頭課長である。つまり隠蔽工作はエネ庁電力・ガス事業部のナンバー1とナンバー2によって画策された、ということだ。

「資源エネルギー庁内の担当部局から長官以下の庁内幹部には報告がなされていなかった。また、資源エネルギー庁や大臣官房の職員の中には、こうした状況について相談・報告を受けていた職員もいたが、それぞれの上司に対し必要な報告を行っていなかった。」

と発表文にある。エネ庁も経産省も上層部は一切知らされていなかったという主張である。果たして、本当だろうか。

◆官僚の生きる術「責任分散」

経産省の体質を知るOBによると、「あり得ない。官僚は、面倒な案件を自分だけで抱え込むようなことは絶対にしない。上司や関連部署に報告し、責任を分散するのが生きる術です」と言う。

発表文書にある「資源エネルギー庁や大臣官房の職員の中には、こうした状況について相談・報告を受けていた職員もいたが」という箇所がクセモノだ。

大臣官房とは大臣直属で、国会や政治家対策の部署でもある。政治案件である関電がらみの不祥事は、官房やエネ庁上層部に報告しておくことは必須である。他の部局も知っている虚偽文書の作成を、大臣官房や長官の周辺に知らせなかったら、大変なことになる。関係者が多すぎて部長・課長で抱え込める案件ではない。

とりわけ首相の政務秘書官でもある今井尚哉(たかや)補佐官は、エネ庁次長から官邸入りした。エネ庁の不祥事が発覚した時、「知りませんでした」では済まない。

「実際に報告しても、文書では残さず、露見したら報告はなかったことにすることで組織防衛を図るのはイロハのイ」だそうだ。

今回、首謀者である管理職級職員(政策課長)だけが国家公務員法による懲戒処分である「戒告」になった。戒告は法に基づく処分では一番軽い。発案した担当者と了解した指定職級職員(電力・ガス事業部長)は、省内の規定による処分である「訓告」で済ませた。

公務員による虚偽の公文書作成は、刑法の虚偽公文書作成罪にあたる。刑事告発に値する犯罪だ。公務員は犯罪を知ったら通報する義務を負っている。公然たる虚偽公文書作成を、軽い処分で終わらせる経産省の姿勢には唖然(あぜん)とさせられる。身内に甘い体質の背後には首相官邸の存在があるのだろう。

自殺者まで出した財務省の決済文書の改ざんを受け、人事院は2018年、懲戒処分の指針を改め、公文書の偽造・変造などは「免職もしくは停職」とした。

こうした厳罰化をあざ笑うかのような軽い処分で済ませた今回の措置は、官邸を頂点とした政府組織の「緩み」を象徴している。

◆救いは残っていた正気

だが今回、注目すべきは、隠蔽工作が「情報公開請求」で露見したことだ。誰が請求したか、経産省は「第三者」とするだけで、明らかにしていない。

ピンポイントで「関電への業務改善命令に関する公文書」と指定したのは、ここに不正があることを知っていた、からだろう。

経産省も観念し、内部調査し、3月31日に発表した。

政権をバックに「我が世の春」を謳歌(おうか)する役所の内部に、「奢(おご)り」を苦々しく思う正気がまだ残っていた。せめてもの救いである。

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