п»ї イージス・アショアのデータ捏造 防衛相は腹を切れ 防衛省の闇 今度は住民を欺く 『山田厚史の地球は丸くない』第140回 | ニュース屋台村

イージス・アショアのデータ捏造 防衛相は腹を切れ
防衛省の闇 今度は住民を欺く
『山田厚史の地球は丸くない』第140回

6月 07日 2019年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の立地を巡り、岩屋毅防衛相は「秋田県での説明資料の一部に間違いがあった」と認め、国会で陳謝した。防衛省は他の候補地と比較して秋田市の陸上自衛隊新屋(あらや)演習場を適地と決めたが、不適とされた他の地点の調査に信じられない誤りがあった。

イージス・アショアは北朝鮮などからミサイルが飛んで来る事態を想定し、秋田市と山口県阿武町に配備する予定だ。立地調査の結果を地元住民の示し、受け入れを求めていた。

「うっかりミス」では済まされない

周囲に高い山があるとミサイルを捉えるレーザーの仰角が大きくなり、それだけ発見が遅れる。山を見上げる仰角は、調査で重要な要素とされた。ところが説明会で示された仰角のデータに疑問の声があがり、秋田魁(さきがけ)新聞が独自に調査したところ、9地点で実際より過大に表示されていることが分かった。

岩屋防衛相は「人為的なミスだが、調査の信憑(しんぴょう)性を失墜させかねないものであり大変申し訳なく思っている」と非を認めた。しかし、データを修正したところで周辺のインフラの整備が十分でないことを理由に「候補地になり得ない」とし、新屋演習場への配備という方針に変わりはないことを強調した。

仰角4度の山が15度と記載されていた。防衛省によると、地図上の山をコンピューターに入力するときに誤った、と説明している。だが、仰角15度なら相当高い山が近くにあることになる。おかしいと気付くのが普通だが、そのまま決裁され、防衛大臣の名で住民に示された。

「新屋に立地することが初めから決まっていて、形ばかりの立地調査に合わせデータを都合よく作ったのだろう」との声が住民から上がっている。

仰角は昔なら大砲、いまではミサイルやレーザーなど発射型兵器を命中させるための「基本のキ」となるデータだ。「仰角○〇度。発射!」という掛け声は戦争映画のシーンによく登場する。読み間違いは戦場で致命的な失敗となる。自衛隊は戦闘に参加した経験はないが、訓練では優秀な実績があるという。仰角を読み違えるという初歩的なミスなど考えられない。

防衛省では、情報公開を請求された南スーダン派遣部隊の「日報」について「廃棄された」と回答して騒ぎになった。後になって「発見」され、それもあちこちで存在が確認されるという事態となり、情報管理や隠匿体質が問題になった。「意図的な隠蔽(いんぺい)ではない」と抗弁したものの、責任のなすり合いから稲田朋美防衛相(当時)のクビが飛んだ。これに続いて、イラクに派遣されたPKO部隊の日報も「廃棄された」はずが、次々と「発見」された。

今回も岩屋防衛相は「うっかりミス」として逃げようとしている。山の高さを嵩上げしたのは「気付かなかった」で済む問題ではない。データ捏造(ねつぞう)の疑い濃厚である。

米軍の下請けのような仕事

今回の不祥事の背景には、イージス・アショアが陸上自衛隊でも歓迎されていないことがある。

計画では、ミサイル防衛は海上自衛隊のイージス艦が担う方針で、近く8隻体制が整う。陸上に固定する防空システムは防衛計画の大綱に盛られておらず、想定外の兵器だった。導入は米国のトランプ大統領の売り込みによるものだ。

軍事ジャーナリストの田岡俊次(しゅんじ)氏によると、「予定外に導入に困惑した陸上自衛隊は実績のある海上自衛隊に協力を求めたが、海自はイージス艦の増強で手いっぱいで断った。もともと長距離ミサイルを迎撃するシステムで秋田はハワイ、山口はグアムへの飛行コースの真下にある。米軍の施設を守るためのもので、陸自が欲しかったシステムではない」という。

米軍の下請けのような仕事で、立地のつじつま合わせや住民対策など「やらされ感」のある仕事だった。しかも2基で6千億円。米国の有償武器援助として導入される。すごい武器を米国が提供して下さる、ありがたくおカネを払わせて頂きます、というのが有償武器援助だ。値段や納期は先方の一存で決まる。

弾は1発4億円。飛んで来るミサイル1発に2発を発射するが、予算の都合で1基に装備するのは8発程度。実践になればダミーも含めて何発もミサイルは飛ぶので、あっという間に弾切れになる、と田岡氏は言う。

配備が浮上したのは、北朝鮮が核やミサイルの試射を繰り返した一昨年のことだ。米朝融和で北朝鮮を巡る状況は変わった。これから発注し、要員を米国に送って教育するので実戦配備は2023年以降という。その時、無用の長物になっているかもしれない。

政治が責任を被る姿勢を見せるべきだ

そんな中で地元は降って湧いたような騒動に巻き込まれ、「データ捏造」が発覚した。

振り返れば、近畿財務局の職員が自ら命を絶った森友学園への国有地払い下げ事件も、きっかけは些細なことだった。安倍首相を崇拝する学校法人の理事長が安倍首相夫人の協力を得て財務局に働きかけたのが発端だった。

都合の悪いことを隠すため、決裁文書が改竄(かいざん)され、その当事者が自殺に追い込まれた。改竄を指示した局長は国税庁長官になりお咎(とが)めなし。役所にとって文書改竄はあってはならないことだが、堂々とまかり通る。分からなければやっていい。バレたらとぼける。厚生労働省が舞台になった統計改竄も、中央官庁に蔓延(まんえん)するモラル崩壊の中で起きた。

政治の迷走に役所が振り回され、とんでもない忖度(そんたく)をいやいやする。しわ寄せは立場の弱い末端がかぶる。

住民説明会で示された「データの偽装」は、どこで誰の責任でなされたのか。防衛大臣が腹を切り、政治が責任を被る姿勢を見せ、役人に自戒を求める出来事だろう。

政局を横目にして逃げ切りをはかるような醜態は見せてほしくない。

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