п»ї バイデンは親会社の社長? 首脳会談から見える日米同盟の現実 『山田厚史の地球は丸くない』第213回 | ニュース屋台村

バイデンは親会社の社長? 首脳会談から見える日米同盟の現実
『山田厚史の地球は丸くない』第213回

5月 27日 2022年 国際

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

他人の家を訪れる時、普通は玄関から入る。勝手口から入る人はいない。日米首脳会談のため日本にやってきたバイデン大統領は、玄関口である羽田空港から入らず、在日米軍横田基地(東京都福生市など)に降り立った。米国の軍や政府関係者が勝手に使う米国専用の出入り口だ。

ヘリコプターに乗り換え、これも東京都23区内で唯一の米軍ヘリポート基地「赤坂プレスセンター」(東京都港区六本木7丁目)に到着。分厚い鉄板で覆われた大統領特別車で都心に繰り出した。

◆都心の一等地にある在日米軍基地

赤坂プレスセンターは「謎の多い施設」とされている。軍事機密を盾に内部でどんな活動が行われているのか、明らかにされていない。「プレスセンター」と名乗るが、記者の活動拠点ではない。米軍関係の記事を配信する米軍の準機関紙「星条旗新聞社」の極東支部がここにある。だから「プレスセンター」を名乗るが、米国の陸海空軍の情報・研究機関の出先がここにある。

ほかにも、米陸軍国際技術センター・太平洋、米海軍グローバルアジア研究所 、米空軍アジア宇宙産業開発事務所など、陸海空軍のシンクタンクのアジア出張事務所が設けられている。さらに、日本の情報を集めにやってくる米軍関係者の宿泊施設「ハーディー・バラックス」もここにある。

2015年、米国の諜報機関がドイツやフランスなど同盟国の要人の携帯電話を盗聴していたことが発覚した。メルケル首相(当時)まで盗聴されていたなら日本でも首相の携帯電話や会話が傍受されているのでは、との憶測が広がった。その時に活動拠点として疑われたのが、この赤坂プレスセンターだった。

都内有数の複合商業施設・六本木ヒルズから約400メートルという都心の一等地に広さ約3万平方メートルの米軍施設があり、首相官邸も自民党本部も目と鼻の先にある。その一角にある赤坂ヘリポート。実は港区の土地で、今も「返還問題」がくすぶっている。

1990年代、赤坂プレスセンターの地下を通るトンネルの工事が行われた時、仮設として青山公園の一角に造られ、完成時には返還することが約束されていた。ところが、米軍はそのまま居座っしまった。使い勝手がいいからだろう。横田基地との間に、日に何便かの定期便があるらしい。羽田や成田で面倒な通関手続きをすることもなく、横田基地から空を飛んで都心に直行できる。近場には米国大使館や米海軍が管理する「ニュー山王ホテル」がある。

地元にとって騒音や事故が心配な迷惑な施設だ。横田から飛んできたヘリが中学校に不時着したこともある。港区は2000年から米政府に「返還請求」しているが、なしのつぶてだという。

◆トランプの路線を引き継いだバイデン

バイデン大統領は帰りも赤坂ヘリポートから横田基地に飛び、待機させていた大統領専用機で帰国した。上空は、米軍が管理する横田空域。首都の空を米軍に支配される独立国は日本くらいだろう。そんな日米関係では「ヘリポートの返還」など論外かもしれない。

オバマ政権まで米国大統領は「玄関」から入ってきた。実態はともかく、あからさまな日米関係は表立った場面では見せない、という配慮が双方にあった。踏みにじったのがトランプだった。基地は偉大なアメリカの出先であり、便利だし警備も楽だ。実利を優先するトランプらしい発想だった。日本の「国家の尊厳」などどうでもいい、と考えたのだろう。その路線を、バイデンは引き継いだ。

バイデンは韓国でもソウル近郊の烏山(オサン)米空軍基地を使った。アジアで中国と対峙(たいじ)する足場固めを狙ったバイデンにとって、基地に降り立つことは支配を実感するものだったろう。

◆本末転倒「まず米国に表明してから」

そんなバイデンを喜ばせたのが、岸田首相の対応ぶりだった。

「日本の防衛力を抜本的に強化し、裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を表明し、大統領から強い支持をもらった」と記者会見で明らかにした。隣でバイデンは満足そうだった。

防衛費の増額は、安倍晋三元首相が最近言いだしたことだ。NATO(北大西洋条約機構)並みにGDP(国内総生産)の2%超の防衛予算が必要▽現在の5兆円規模を5年で倍増させる▽年間1兆円規模の増額が望ましい――という主張だ。自民党では勢いづいているが公明党は慎重で、与党でも調整はついていない。

防衛力の増強は、政府にとって大きな問題だが、まだ国民的な議論になっていない。5月25日付の読売新聞は「防衛論議本格化へ」と見出しを打ち、政府・与党で増額をめぐる調整がこれから始まると伝えた。つまり議論はこれから、ということである。

首相が米国大統領に「相当な増額」を表明したことで、国際的な約束となった。岸田首相は、国民に対して「防衛費の増額」について何も説明していない。説得もしていない。だというのに、米国の大統領に約束した。

誰を向いて仕事をしているのか。安倍元首相もそうだった。政府の防衛計画にも載っていない兵器をトランプ大統領に買い入れを約束し、後になって政府方針にして予算化する、というやり方だった。

国内に反対や異論のある政治課題を、まず米国に表明し、既成事実にして国内を説得する。自民党や政府では「米国と約束してしまったのならしょうがない」となるようだ。本末転倒の話でないか。

◆日米同盟その実態は親分子分の関係

ウクライナの戦争で「防衛力の充実」を求める声が大きくなっている。だが、防衛費にどれだけの税金を使えるか、は他の予算とのバランスが問われる。防衛問題に焦点を絞れば「もっと予算を」という声は当然出るだろうが、政府は、安全保障だけではない。

ほぼ同額で推移してきた文教科学費でも「学校の先生が足らない」「世界の趨勢(すうせい)に遅れないよう科学予算をもっと」などという声が上がっている。逼迫(ひっぱく)する財政で防衛力だけ「5年で2倍」などは、現実の予算編成で考えられない。

安倍元首相は「NATO並みの防衛費にできなければ日本は笑いものになる」と言う。そんな財源はどこにあるのか、という問いには、「防衛国債」を提案している。他の予算はカットせず、増額は国債で賄う。借金が増えたって、国債を買うのは日銀だ。「日銀は政府の子会社」だから、いくら借金が増えても大丈夫、と主張する。

安倍はさしずめ、日銀の親会社の社長のつもりだったのだろう。子会社社長に黒田東彦(はるひこ)氏を選任した。黒田は、言われるまでもなく安倍が望んでいる「国債買い取り」を熱心に進めた。安倍は国債で政府の借金を膨らませて兵器の爆買いまでやった。

この構造は「既視感」がある。安倍とトランプの関係だ。安倍はトランプに猛烈に気を使った。自分にとって親会社の社長のようなもの、と思っていたからではないのか。

横田基地から平然と入国するように、トランプは日本を都合のいい属国と見ているのだろう。日米同盟は対等ではない。親分子分の関係である。それは岸田も承知している。

「防衛費の抜本的増額」「ミサイル防衛網の整備」などで親会社の社長を喜こばせた。

在日米軍基地から出入りする米国大統領。日本の権力中枢の目と鼻の先にある米軍機関。国民より先に米国に約束する日本の首相。日米首脳会談は日米同盟の現在地を物語っている。(文中、敬称略)

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