п»ї 旧統一教会と安倍「国葬」 『山田厚史の地球は丸くない』第219回 | ニュース屋台村

旧統一教会と安倍「国葬」
『山田厚史の地球は丸くない』第219回

8月 19日 2022年 政治

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

無難一筋の政権維持に努めてきた岸田首相に、「高転び」の気配が漂う。目の上のタンコブだった安倍元首相が消え、運が巡ってきたかに見えたが、「非業の死」が残した「旧統一教会汚染」が、政権の足元を揺さぶっている。安倍元首相の葬儀を「国葬」にしたことは、今に思えば、誤算だった。

安倍元首相の命を奪った銃撃から1か月余り、事件の背後に浮かんだ世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政権党との癒着が連日、メディアを賑わしている。

◆「国葬反対」の声と支持率急落

「安倍暗殺」への岸田首相の反応は素早かった。参院選大勝の勢いに乗って、「国葬」を打ち出した。安全運転で聞く力を強調する岸田首相らしからぬ独断だった。

治安のいい日本で白昼、選挙演説中の元首相が銃で殺されるという信じ難いい出来事に人々は動揺していた。「民主主義への暴挙」「安倍さんお気の毒」という声が巻き起り、首相官邸前の献花台には弔問に訪れる人が長蛇の列をなした。メディアには亡き元首相を惜しむ報道があふれ返り、喪失感が世の中に広がっていた。

そんな空気を感じ取った岸田首相は、国葬を復活して元首相を弔うことで自らへの求心力を高める策に打って出た。戦争への反省で廃止された国葬は、唯一の例外として、吉田茂氏に対してだけ行われたが、これを執り行った佐藤栄作はじめ歴代の首相はせいぜい「国民葬」だった。

「国葬にすれば海外から錚々(そうそう)たる顔ぶれがやってくる。『日本の顔は安倍に代わって岸田です』と印象づける絶好の機会と考えたようだ」と、自民党議員は解説する。

向こう3年間、国政選挙はない。世論に煩わされることなく、政策が打てる。野党は恐れるに足らず。最大の障害である党内最大勢力である安倍派は、求心力を失うだろう。岸田の時代がやってくる。国葬は世界に対するお披露目、という目論見だったという。

ところが今や「安倍元首相の国葬はふさわしくない」と考える人が増えている。時事通信の8月の世論調査では、「国葬反対」は47・3%で、「賛成」30・5%を大きく上回った。報道各社の調査は、ほとんどで「国葬反対」が「賛成」を上回った。同時に、岸田内閣の支持率が急落している。

コロナ感染で第7波が到来し、医療の逼迫(ひっぱく)がまた起きていることも影響しているが、「旧統一教会と政治」が国民の関心事になっていることが大きいるようだ。

◆自民党と旧統一教会を結ぶ太いパイプ

安倍銃撃の背景には、山上徹也容疑者の「家庭崩壊」があった。度重なる不幸から旧統一教会に入信した母親が、1億円を超える寄付を教団にさせられていたことが導火線になっていた。元首相が関連団体の会合にビデオメッセージを送るなど旧統一教会と深い関係にあったことが、殺害の動機となっていた。

事件を機に、信者からカネを吸い上げる旧統一教会の反社会性が改めて問題になった。1980年代から2000年代にかけ、霊感商法や合同結婚式が問題になった。刑事事件にもなり、民事訴訟でも不当性が判決で認定されるなど、旧統一教会の活動は社会問題となっていた。その後、オウム真理教の事件などがあって影に隠れた格好になっていたが、被害は水面化で続いていた。教団はトラブルを抱えながら政治家とつながりを持ち、自民党の選挙を底支えしていた事実が、「安倍銃撃」をきっかけに一気に表面化した。

安倍元首相がここでも脚光を浴びている。第1次安倍内閣で首相の政務秘書官を務めた井上義行参議院議員のケースがわかりやすい。井上氏は2019年の参院選に全国区から出馬したが、得票は8万票にとどまり落選。ところが今回は得票を16万票に倍増させ当選した。旧統一教会が組織的に応援したことが票の上乗せにつながったとされる。

前参議院議長の伊達忠一氏がHTBの番組で、その背景を語っている(趣旨は次の通り)。

2016年の参議院選では自分に近い宮島喜文氏を当選するため、安倍首相に相談し、統一教会票を回してもらった。前回うまくいったので今回もお願いしたい、とまた安倍さん頼んだが、「今度の選挙では他の候補に回すことになっているので難しい」と断られ、当選は無理と考え、宮島氏は出馬を断念した、という。

今回はその票が井上氏に回わった。ジャーナリストの横田一氏は、井上候補の選挙運動を取材し、旧統一教会が丸抱えで応援している一端を明らかにした。

さいたま市文化センターで行われた旧統一協会の「神日本第1地区責任者出発式」に井上候補は参加。協会幹部は「井上先生はもうすでにシック(信徒)になりました」と紹介し、「比例票には井上義行と」と訴え、万雷の拍手を浴びた。当選した井上議員は、「信者になったのか」という質問に、教会の「賛助会員になった」と説明している。

参院議員は任期6年で3年ごとに選挙がある。2019年の選挙では安倍と親しい元産経新聞政治部長の北村経夫氏が議席を得ている。初当選の2013年は、事前調査で「Cランク、当選圏外」とされたが、旧統一教会票を上積みし、当選を果たした。本人も旧統一教会の応援があったことを認めている。

さまざまな事実が示すように安倍氏は、自民党と旧統一教会を結ぶ太いパイプであり、ビデオメッセージで教会活動をたたえるなど、広告塔の役割を果たしてきた。

◆「自民党と旧統一教会の合同葬で」

支持率の急落に岸田首相は8月10日、内閣改造に着手。旧統一教会とつながりのあった閣僚を排して顔ぶれを一新した。前内閣は20人中、7人が「旧統一教会と接点あり」だったが、改造後は8人が「接点あり」となり、副大臣・政務官を含めると27人が「旧統一教会汚染」にさらされていることが明らかになった。

「顔ぶれ一新」のはずの閣僚入れ替えが、「汚染閣僚の増産」になるという悲惨な結果となった。自民党が党としてきちんと調査していないことが失態を招いた。

自民党の茂木幹事長は「党として旧統一教会とのつながりはない」とするだけで、議員がどう関係しているかは「議員個人が説明すること」と、政治とカルトの関係を調査することはしない、という態度をとっている。

「あくまで議員個人の問題」というが、旧統一教会票の割り振りや、信者の選挙応援で議席を確保する候補がいれば、その見返りは全くなしとはいえないだろう。

誰がどう教会と関係してきたか、文部科学省が拒否を貫いてきた「名称変更問題」(「世界基督教統一神霊協会」を「世界平和統一家庭連合」に)を、下村博文文科大臣の時に変更させたことなど、行政がゆがめられたことはないのか、など自民党と旧統一教会の不透明な関係をいぶかしく思う有権者は少なくない。

「実態を調査すれば、底なしの汚染が明らかになり、収拾が付かなくなる」という声も聞こえる。

ある閣僚経験者は「旧統一教会との関係を調査すれば、岸信介元首相からの安倍三代の恥部をさらけ出すことになる。これから国葬をしようという時に、安倍さんが汚染元という結果が出ることが明らかな調査など政権が行えるはずはない」と指摘する。自民党が調査しなくても、ネットが先行する「自民・カルトの癒着探し」はどんどん進む。

国葬は9月27日。アメリカからはハリス副大統領が、ドイツからはメルケル前首相が参列するという。そんな時に、ソウルでは旧統一教会による安倍氏追悼集会が開かれた。教会がいかに安倍晋三を頼っていたか、いまさらながら明らかになった。

ネットには、「自民党と旧統一教会の合同葬で」という書き込みまで出るようになった。国民の半数以上が首をかしげる国葬をする意味は、果たしてあるのだろうか。(文中敬称略)

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