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なぜ「少子化対策を高齢層の負担で」なのか-世界の人口動態からみる日本の立ち位置
『山本謙三の金融経済イニシアティブ』第35回

12月 07日 2020年 経済

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山本謙三(やまもと・けんぞう)

oオフィス金融経済イニシアティブ代表。前NTTデータ経営研究所取締役会長、元日本銀行理事。日本銀行では、金融政策、金融市場などを担当したのち、2008年から4年間、金融システム、決済の担当理事として、リーマン・ショック、欧州債務危機、東日本大震災への対応に当たる。

菅首相が、不妊治療への保険適用に意欲を示している。

政府はこれまでも、待機児童ゼロ対策など、多くの少子化対策を打ち出してきた。しかし、従来の議論には大事なピースが欠け落ちている。誰が費用を負担するか、である。

少子化問題は、要は、人口構成のバランスの問題だ。経済社会の観点でいえば、年少人口の減少と高齢人口の増加の問題は一対で考えられなければならない。

日本は、韓国などと並んで、高齢者比率がとくに高まる国だ。高齢層以外に、少子化対策の費用を負担できる層はいない。その現実を直視しなければ、少子化対策を打とうとしても、ただちに財政の壁にぶつかることになる(注=本文中の図表は、その該当するところを一度クリックすると「image」画面が出ますので、さらにそれをもう一度クリックすると、大きく鮮明なものを見ることができます)。

■生産年齢人口比率は未知の領域へ

日本の生産年齢人口(15~64歳)比率は、90年代前半の70%弱をピークに低下傾向が続いている。直近(2020年11月概算値)は59.3%と、ついに戦後のボトム(1949年59.6%)を割り込んだ。

(参考1)生産年齢人口比率の推移(生産年齢人口の総人口に占める比率)

(出典)総務省統計局「人口推計」および国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2017年推計)を基に筆者作成

 

生産年齢人口比率は今後も低下が続き、2050年前後には51%台となる見込みにある(参考1参照)。日本は、いよいよ未知の領域に入る。

戦後ボトムの1940年代後半とは、戦争で多くの若者を失う一方、団塊世代が大量に生まれ、数少ない働き手で多くの子供を養わなければならない時代だった。

これからは、年少人口の増加に代わり、高齢人口の増加が生産年齢人口比率を押し下げることになるが、数少ない現役世代で多くの非労働力人口を養わなければならない姿に変わりはない。

■高齢化がとくに進む日本、韓国、台湾

では、世界の人口動態からみればどうか。参考2は、国際連合による世界各国・地域の生産年齢人口比率の予測である。このグラフからは以下のことが読み取れる。

(参考2)世界各国・地域の生産年齢人口比率の推移


出典)United Nations “2019 Revision of World Population Prospects”を基に筆者作成

 第1に、東アジア地域の生産年齢人口比率の振幅がきわめて大きい(上段右の図)。これは、戦後のベビーブームとその後の産児制限が影響しているといわれる。韓国、シンガポール、台湾の低下スピードは、日本、中国をもしのぐ(下段左の図)。

第2に、2060年時点の生産年齢人口比率は、日本、韓国、台湾がとくに低くなる(スペインがこれに次ぐ)。その水準は、中国、米国、英国、ドイツ、フランスよりも5~10%ポイント低い。

■若い世代の財政負担を軽減するには

日本、韓国、台湾の生産年齢人口比率がとくに低くなるのは、高齢人口の増加が理由だ。その背後には、長寿化の進展がある(参考3参照)。

(参考3)年齢3区分別人口構成の国際比較(2060年時点予測)

(出典)United Nations “2019 Revision of World Population Prospects”、厚生労働省「令和元年簡易生命表」、報道資料を基に筆者作成

 日本でいえば、国民皆保険を中心とする医療制度の充実や、老後の生活を支える年金制度の充実が、長寿化を後押ししてきた。寿命の長さは国の豊かさの反映であり、国として誇るべきことといってよい。

しかし、その豊かさが誰の負担で実現したものかは十分な注意を要する。現在の日本の医療制度や年金制度は、①現役世代の税負担と、②将来世代の費用負担である国債の発行で、多くの費用を賄っている。すなわち、現代の高齢層は、若い世代の負担で長寿を享受しているといってよい。

この財政構造を維持したままでは、どんなに多くの少子化対策を打ち出しても、若い世代はますます子供をもちにくくなるだろう。個々にのしかかる負担が、年々重くなるからだ。

人口構成のバランスを少しでも回復するには、高齢層が少子化対策の負担を担っていくしかない。もちろん、だからといって、医療制度を脆弱(ぜいじゃく)にし、寿命を短くすることは適切でない。高齢層がより長く働き(あるいはボランティア活動などを積極的に行い)、負担を担っていくことが期待される。

参考3の2060年時点の人口予測を基に、仮に日本でも欧米主要国並みの生産年齢人口比率を達成しようとすれば、(日本だけ)生産年齢人口の定義を15~64歳から15~74歳に引き上げればつじつまが合う。そうすれば、生産年齢人口比率は10%程度上がる。

まずは定年制を廃止し、高齢者が長く働ける環境づくりに努めることだろう。

高齢になれば、どうしても加齢に伴う様々な問題が生じる。同じ年齢の高齢者であっても、健康状態や身体能力は人により大きく異なる。少子化対策の負担を高齢層に期待するのは、心情的には厳しい。きめ細かい高齢者対策が必要であることも、論を待たない。

しかし、いまのままでは、この国は高齢化・少子化のサイクルから逃れられない。政治は、財政負担の問題から逃げてはならない。

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