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世界を圧倒した長寿化スピード(3)【連載企画:人口構成と日本経済(全5回】
『山本謙三の金融経済イニシアティブ』第41回

5月 12日 2021年 経済

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山本謙三(やまもと・けんぞう)

o オフィス金融経済イニシアティブ代表。前NTTデータ経営研究所取締役会長、元日本銀行理事。日本銀行では、金融政策、金融市場などを担当したのち、2008年から4年間、金融システム、決済の担当理事として、リーマン・ショック、欧州債務危機、東日本大震災への対応に当たる。

前回述べたように、日本の人口ピラミッドが「脚の長い凧形」に向かうのは、少子化と長寿化の結果である。少子化がピラミッドの下方をスリムにし、長寿化が全体の形状を縦長にする。

◆世界に冠たる長寿化スピード

参考は「平均寿命の国際比較」である。折れ線は、主要国の男女別平均寿命の推移を表す。

(参考)主要国の「平均寿命の国際比較」

(出典)厚生労働省「令和元年度の簡易生命表の概況」。日本は筆者が赤く色塗り

  直近時点で、日本は女性が1位、男性がスイスに次ぐ2位にある。香港のような長寿地域を含めても、日本がトップクラスにあることは間違いない。

さらに特筆すべきは、長寿化のスピードである。1965年当時、日本の女性の平均寿命は主要国中最下位だった。男性も中位どまりだった。これがその後の約20年で、トップクラスに躍り出た。世界に冠たるスピードといってよい。

◆国民皆保険制度の貢献

日本の長寿には、いろいろな理由が指摘されてきた。健康を重視し、暴飲、暴食を控える国民性や、衛生環境の良さなどである。しかし、筆頭に挙げるべきは、やはり国民皆保険制度の存在だろう。「いつでも、だれでも、どこでも」受診できる医療制度は、長寿の実現に大きく貢献してきた。

  この見方を補強するのが、米国の動向だ。米国は、オバマケア(医療保険制度改革)の導入まで、長く国民皆保険制度を採用してこなかった。上記グラフが示すように、米国の平均寿命は、男女ともに主要国中最下位に沈む。因果関係は断定できないが、国民皆保険制度と平均寿命の間には強い相関がある。

◆長寿の恩恵

長寿は、それ自体が素晴らしいことだ。論者の中には、「国の豊かさは寿命の長さで測られるべき」と主張する者さえいる。その説にしたがえば、日本は間違いなく「豊かな国の一つ」である。

  実際、日本人の平均寿命は、ロシアに比べ男性で13年、女性で9年も長い。米国との比較でも、男性で5年、女性で6年長い。

  卑近な例を挙げてみよう。筆者は今年67歳で2度目の東京五輪・パラリンピックを迎える。筆者が生まれた年(1954年)の男性の平均寿命は63歳だった。仮にその寿命で人生を全うしていれば、2度目の五輪は迎えられなかった計算となる。一方、67歳となった現時点では、男性の平均余命は18年ある。まさに長寿化の恩恵といってよい。

◆財政負担の増大をもたらす長寿化 

しかし、一歩踏みとどまって、長寿が実現した理由を考えれば、必ずしも楽観はできない。

老後の生活には、医療費や介護費、生活費がかかる。これを支えるのは、医療保険や介護保険、年金の制度である。しかし、高齢世代が、制度にかかる費用を自賄いできているわけではない。払い込んだ保険料では足りず、所得税や国債発行を通じて、若い世代や将来世代に負担を転嫁している。

  この仕組みは、いつかはもたなくなる。人口が減少する以上、若い世代はどこかで負担に耐えられなくなる。そうなれば、いまの若い世代は、高齢世代がいま享受しているほどには、長寿の恩恵を受けられない。彼ら(彼女ら)が高齢になる時点で財政負担の調整が起こり、寿命の伸びが止まるかもしれない。

  そうであれば、いま長寿の恩恵を受けている世代は、どう社会に還元するかを考えなければならない。社会保障の見直しだけでなく、一人一人が長く働く社会づくりを目指す必要がある。できる限り多くの人が、給付を受ける側から保険料を納める側に回ることである。

  長寿を、喜んでばかりはいられない。高齢層が果たすべき責任は重い。

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