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私たちはかくも長生きする社会に生きている(5、完)【連載企画:人口構成と日本経済(全5回)】
『山本謙三の金融経済イニシアティブ』第43回

6月 21日 2021年 経済

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山本謙三(やまもと・けんぞう)

o オフィス金融経済イニシアティブ代表。前NTTデータ経営研究所取締役会長、元日本銀行理事。日本銀行では、金融政策、金融市場などを担当したのち、2008年から4年間、金融システム、決済の担当理事として、リーマン・ショック、欧州債務危機、東日本大震災への対応に当たる。

前回、就業人口と総人口のバランスを維持するには、70歳代半ばまで働く必要があると述べた。 

今回は、少し別の角度から確認してみたい。過去、日本人が一生のうちどの程度の期間を勤労に割り振っていたかを試算してみる。改めて分かるのは、今の日本人がいかに長生きする社会に生きているかだ。

昔の日本人はもっと長く働いていた

参考1は、100年前、50年前、2019年の3時点をとり、日本人が「一生(参考1のD)」のうち何割を「働く年数(同B)」に充ててきたかを試算したものだ。引退時の年齢と同時点での平均余命の合算値を「一生の年数」としているので、平均寿命よりも長いことに注意をいただきたい。

(参考1)日本人の「一生」に占める「働く年数」の割合

(注)試算の前提は末尾脚注を参照 (出典)筆者作成

試算結果をみると、100年前と50年前はともに60数%と、大きな違いはなかった。 

劇的に変わったのは、その後である。2019年には、同比率は50%強まで低下した。 

長寿化により、引退後の年数が延びた。学業に費やす期間が長くなった。勤続年数が短くなった。勤続年数の短縮は、身体が動く限り働くとしてきた農林水産業や自営業の比率が低下する一方、定年制のある勤労形態が増えたからだろう。

それでも、圧倒的な理由は長寿化だ。長寿化のおかげで長い余生を送れるようになったと言えるし、長寿の割に働かなくなったとも言える。これを「豊かさ」とみることもできるが、前回述べたように、あくまで若い世代に負担を転嫁したうえでの「豊かさ」である。 

◆長く働くことの意味

では、「働く年数」の割合を100年前、50年前並みにするには、一生をどのように割り振ることになるか。

ざっくりと言えば、①就職まで20年(参考1のA)②働く期間60年弱(同B)③引退後10年弱(同C)――とすれば、計算が合う。すなわち、昔の日本人の働き方に肩を並べるには、80歳弱まで働く必要があるということだ。

滑稽な計算にみえるが、それだけ長寿化が進んでいる。

しかし、健康寿命が追い付かない。健康寿命とは「日常生活に制限のない期間」を言う。日本人の現在の健康寿命は、男性72歳、女性74歳である(2016年)。仮にこの年齢まで働いたとしても、その時点での平均余命は男性で14年、女性で16年ある。このギャップの大きさこそが、日本経済の問題の根源である。

健康寿命の延伸がやはり重要だ。なんとかギャップを埋めたい。しかし、現実は、健康寿命が延びるたびに平均寿命も延び、差はわずかしか縮まらない(参考2)。

(参考2)健康寿命と平均寿命の推移

(注)健康寿命とは「日常生活に制限のない期間」
(出典)厚生労働省「第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料」、「簡易生命表」を基に筆者が作成

医療が、寿命を延伸することに重点をおいてきた結果だろう。長生きが人類共通の望みである以上、非難はできない。しかし、この不都合な真実から目を背けることがあってはならない。長寿の恩恵を受ける以上、なんとか長く働いて、将来世代の負担を軽減する必要がある。

高齢者が長生きするのは、若い世代の責任ではない。少子化も、若い世代の責任でない。ツケを回し続ければ、若い世代は、今の高齢者が享受するほどには長寿の恩恵を受けられなくなる。

健康寿命を乗り超え、長く働くこと。そして一人ひとりが、より長く健康であるよう努力すること。どうしても成し遂げなければならない課題である。

【参考1の末尾脚注:試算方法】

社会に出るまでの平均期間:1920年は『人口から読む日本の歴史』(鬼頭宏、講談社、2000年)の成人年齢の定義による。1970年、2019年は文部科学省「学校基本調査」の進学率を基に試算。 社会に出てから引退までの平均期間:1920年は引退年齢を60歳ないし65歳とした場合の試算。1970年、2019年は、総務省「労働力調査」を基に労働力人口比率(男)が50%となる年齢を推定し、試算。 引退後の平均期間:1920年は厚生労働省「第4回完全生命表(1921~25年)」、1970年は同「第13回完全生命表(1970年)」、2019年は同「令和元年簡易生命表」を基に、退職年齢時点での平均余命を試算(男女を単純平均)。

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